電流は電子の流れなので、電子1個1個を正確に制御・検出できれば、従来の計測器では不可能だった精度での電流発生・計測を実現できる。これまで産総研では、半導体ナノ加工技術で作製した単一電子素子を用いて、一定周期で電子を1個ずつ送り出し、直流電流を発生・計測する技術の開発に取り組んできた。
今回、電子の密度を時間的に変化させる単一電子デジタル変調技術を開発し、電子数個レベルで正確な任意波形の電流を発生させることに成功。発生させた電流を基準とすることで、直流(0Hz)~メガヘルツ(MHz)の周波数帯域で、フェムトアンペア(fA)(10-15A)以下の極微小電流を精密に測定できるようになる。
産総研によると、今回開発した極微小電流の発生技術は、低消費電力化が期待されるスピントロニクスなど次世代素子の研究開発や、ナノ構造中で生じる物理現象の解明などの基礎研究への貢献が期待される。技術の詳細は『Applied Physics Express』で発表された。
メモリの低消費電力化を目指すスピントロニクスなどの次世代素子の研究開発や、ナノ構造中で生じる物理現象を解明する基礎研究では、素子性能の評価や物理現象の観測のために、ナノ構造を流れるわずかな電流を精密に測定する必要がある。そのため、アトアンペア(aA)~fAといった極微小電流を精密に測定できる技術が重要となっている。今後、ナノテクノロジーの発展に伴い様々な研究分野で測定対象の微細化が進み、微小電流計測の重要性はますます高まると予想される。
また、直流電流だけでなく、キロヘルツ(kHz)、MHzといった周波数帯域の微小な交流電流の測定も重要となってきている。しかし、既存の電流計測技術では、このような周波数帯域の交流の計測では不確かさが大きくなるなどの課題があり、正確で信頼できる基準交流電流の発生技術が求められていた。