手のひらの血管を科学的に画像にして解析、生活習慣病リスク診断へ

手や腕を見ると青い筋があちこちに走っている。手首の内側に触れてみれば、誰もが脈動を感じられる。理科室の人体模型にあったような赤い血管は、肉眼では見えないけれども日々刻々、酸素や栄養を体全体に運び続けていて、その構造が加齢や疾病などによって変化する。

健常者と疾患者の血管形状比較により、生活習慣病などの疾患リスクを評価できる可能性があるという。京都大学の研究グループは、生体に安全な光を照射し、生体内にある光吸収体(ヘモグロビン)から生じる超音波を受信して画像化する「光超音波イメージング技術」を用いて、20~50歳台の健常な男女を被験者とする探索的臨床研究を行った。結果、極めて精細な3D画像が得られ、加齢に伴う手掌動脈の湾曲傾向を定量的に解析することに成功した。

従来の血管イメージングでは、造影剤を要したり、被ばくのあるX線を用いたり、あるいは高価なMRI検査によって画像を取得する必要があった。他方、造影剤が不要で侵襲のない超音波診断装置のドップラー画像では、血流画像化は可能でもその解像度に限界があった。ゆえに健常な人での血管イメージングの研究はこれまであまり行われていなかった。しかし、糖尿病、循環器疾患、リウマチなどの膠原病関連疾患等では末梢血管の傷害をしばしば伴うことから、これらの病態において血管の変化が鍵となっていることは明らかだという。

同研究グループは、生体の血管構造解析の第一段階として、手のひらの血管に着目。光超音波イメージング技術を用い、上記健常な男女22名の手掌血管を撮像し、動脈が加齢に伴って湾曲する様子を科学的に画像化した。主に解析した血管は、総掌側指動脈(手のひらを縦に走る3本の動脈)と固有掌側指動脈(親指を除く各指の両側8本の動脈)であり、年齢階層ごとにグループ分けして血管の形状を数値に落とし込み、統計解析を行ったところ、加齢に伴って曲率が有意に大きくなっていることがわかった。

これまでこの技術を用いて乳癌の腫瘍関連血管の画像化研究を行ってきた。同研究グループは、装置の改良により血管の構造が精細に画像化されるようになっただけでなく、乳癌の研究で行ってきた解析のノウハウを応用し、血管の半自動抽出(トレーシング)技術を開発して血管の曲率を計算することができたという。

今回の結果は生活習慣に起因する動脈硬化の様子を反映していると考えられる。局所の血管状態が全身性疾患の兆候、あるいは発病後はその進行度などを反映している可能性がある。また、先天性の血管変化などの性状の観察も可能と考えられるとした。同研究グループは今後、引き続きデータを蓄積し、データの信頼性を高めるとともに、健常血管、病的血管の鑑別法の検討や新しい診断手法の開発などを予定している。

研究の成果は、学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。