シジュウカラも指示表出!

ムクドリが2羽、空から落ちてきた。およそ2年の間に2度も。こずえの縄張り争い、あるいは異性のことで揉めたのだろうか、いずれも2羽が絡み合ったまま、ドスンッと音を立てて、地べたに転がったあとも離れず怒鳴り合っていた、まるで人間みたいに――。

そんな激しい気性の鳥は、子どもの頃可愛がっていた手乗り文鳥しかしらない。つがいで飼っていて、雄はとてもおとなしく、止まり木の上でも室内に放されたときにも、つねに妻に文句を言われ、彼女の言いなりといった有り様だったと記憶している。筆者の手から餌をもらおうものなら、顔や体を鋭く突かれていた。彼に対して彼女もふだんは可憐に鳴く、良い子であった。ただ、機嫌が悪いときに赤い口をめいっぱい開けて、「ギャアーッ」と、筆者の指さえ噛んだ。

空から落ちてきた2羽の雌雄はしらない。そのときの声は、くだを巻く酔いどれオヤジらのようでもあり、バーゲンセールのワゴンに押し寄せる熟女らの喚声のようでもあった。それより何より、野鳥が、羽があることを忘れるほど喧嘩に夢中になり、犬と人間の目の前で寝技を繰り出し合っていたことが驚きだった。もしや、「六本木あたりのカラスはいずれ英語をしゃべるようになる」との冗談が現実になるのではないか、と思わされた。

ホモサピエンスだって、太古の昔は「あー」とか「うー」とか、言語と呼べるほどの長ぜりふを発せず、水場やマンモスを見つけたら仲間に知らせていた。それを「指示表出」として、感情などを示すための自己表出とともに言語の本質に迫ったのは吉本隆明氏だ。そしてきょう、京都大学生態学研究センターの鈴木俊貴氏は、野鳥のシジュウカラが、単語からその指示対象をイメージする能力を有している――ヒト以外の動物で初めて明らかになったことを公表した。

従来、人間以外の動物のコミュニケーションは、話し手が聞き手の行動を機械的に操る「命令」であると考えられてきた。しかし、シジュウカラは天敵のヘビをみつけると、「ジャージャー」と鳴いて、仲間に警戒を促す。この鳴き声は、ヘビに遭遇した時以外に発せられることがないので、「ヘビ」を示す単語(名詞)であるかもしれず、であるならば、ヒトの言語と同様、仲間のシジュウカラ(聞き手)にヘビのイメージを想起させる可能性があるという。

研究では、聞き手は上記特異な声が発せられたときにだけ、ヘビのように木の幹や地面を這わせた小枝に接近し、それを確認することが分かった。これは同声からヘビを想起し、それをヘビのように動く枝に当てはめた結果だと考えられる。人間が「リンゴ」と聞いて赤いリンゴを頭に思い描くように、シジュウカラも「ヘビ」を示す鳴き声からヘビをイメージできる。我々人間が会話中に用いる様々な認知能力は、実は他の動物においても広く進化しているのかもしれないという。

成果は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」オンライン版に掲載された。