花粉の精細胞をつくる仕組みは花の咲かないコケ植物が起源

京都大学は、山岡尚平 京都大学生命科学研究科助教、河内孝之 同教授らの研究グループが基礎生物学研究所(重信秀治特任准教授チーム)と共同で、植物の生殖細胞を作るための鍵となる遺伝子を発見したと発表した。

陸上植物の約9割を占める花を咲かせる植物(被子植物)は、花粉を作って有性生殖を行い、種子を生成する。花粉には「精細胞」が2種類あり、重複受精によって受精卵と胚乳を形成し、それらが発達して種子となる。精細胞は、雌しべが発生する過程で、減数分裂でできる花粉の前駆細胞が非対称に分裂し、小さい方の娘細胞が「雄原細胞」へと分化し、さらに等分裂によってペアとして生じる。これまで精細胞形成のメカニズムとして細胞の非対称分裂の必要性などが示されてきたが、どのようにして「雄原細胞」の分化運命が決まるのか、その分子メカニズムは全く知られていなかった。

研究グループは、陸上植物の祖先的特徴を持つゼニゴケにおいて、突然変異体を基に生殖器を作る遺伝子を同定した。また、シロイヌナズナでその相同遺伝子の機能を調べた結果、花粉の精細胞(動物の精子に相当)をつくる上で必須の役割を持つことを突き止めた。これは植物の生殖細胞の形成メカニズムを明らかにする成果だという。この成果は、米国の学術誌『Current Biology』電子版に掲載された。

花を咲かせる植物は、受粉することで種子を作り、子孫を残す。これは、花粉の中で作られる精細胞が、雌しべの中の卵と受精することで起こる。しかし、精細胞を作る分子メカニズムは、多くの部分が未解明のままになっている。ゼニゴケは、卵と精子を特有の生殖器(造卵器と造精器)の中に作り受精する。今回の研究では、「BONOBO」と名付けた転写因子が、ゼニゴケにおいて生殖器を作る過程をコントロールしていることを明らかにした。

BONOBOはほぼ全ての陸上植物にあって遺伝子ファミリーを構成している。さらにシロイヌナズナのBONOBO相同遺伝子の解析を進めたところ、花粉の精細胞をつくるのに必要であることを突き止めた。これらのことから、BONOBOファミリーは陸上植物の生殖細胞を作るために必要不可欠であることが分かったという。一見全く違うように見える花粉の精細胞とコケ植物の生殖器は、類似の分子メカニズムを使って作られており、BONOBOは、約4億5千万年前に陸上植物が誕生したときから受け継がれてきた、陸上植物の生殖細胞形成の鍵となる遺伝子であると、研究グループでは推測する。