だが、エイズを根治する治療法はいまだ確立されていない。HIV-1感染症/エイズの根治療法が確立できない問題の一つには、HIV-1の感染宿主域がヒトとチンパンジー(霊長目ヒト科)に限られていて、その感染病態を動物モデルを用いて再現できないことが挙げられるという。
京都大学 ウイルス・再生医科学研究所の研究グループは、ヒト免疫システムを再構築し、HIV-1に感受性をもつ小動物モデル「ヒト化マウス」を用い、HIV-1感染最初期におけるウイルスタンパク質と内因性免疫のせめぎあいの分子メカニズムを解明したことを、きょう公表した。その感染病態を再現できるという。
ヒト造血幹細胞を移植し、ヒト免疫システムを再構築した同研究グループは、ヒト化マウスモデルに加え、特定の遺伝子を選択的に欠失・破壊することによって、その遺伝子の機能を解析するリバースジェネティクス法を駆使。そして作製したさまざまな変異体ウイルスを用いることで、多様な分子的機能をもつアクセサリータンパク質の一つVpu(viral protein U)が、宿主が先天的に保有する内因性免疫の一つ「テザリン (tetherin)」を抑制――この活性が、感染初期における効率的なウイルス増殖に重要であることを解き明かした。
さらに、HIV-1の祖先ウイルスと考えられているSIVcpz(チンパンジーが保有)の変異体ウイルスを用いることで、Vpuがテザリンを拮抗阻害する活性を獲得することが、ヒトに適応進化する上で重要であることを実証した。
今回、HIV-1 と内因性免疫のせめぎあいの分子メカニズムの一端を明らかにしたことは、エイズの病態解明の一助となるのみならず、HIV-1の起源を辿る上でも重要な知見となる。が、HIV-1のアクセサリータンパク質は他にも存在すること、そしてヒトの内因性免疫システムはテザリン以外にもさまざまであることから、生体内におけるHIV-1と内因性免疫のせめぎ合いはより複雑なものであると考えられる。
ヒト化マウスモデルをプラットフォームとした今後の研究により、ウイルスと宿主のせめぎ合いの原理がより明らかとなることが期待されるという。
同グループの研究は、科学研究費補助金、新学術領域研究「ネオウイルス学」、日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)の支援を受けて実施されたものであり、成果はCell Press社の学術誌「Cell Host & Microbe」に掲載された。