ほたるの光で読書の日々、最新"IoT"技術で現実に

中国の故事に由来する唱歌の詞、その真偽を筆者はかつてスキー場で確かめたことがある。結果は友人が鼻で嗤うものだった。夏の夜の逸話のほうは、虫かごに入れれば一晩で死んでしまう蛍を何十匹も犠牲にするのが忍びなく、試す気も起こらなかった。

が、窓に雪を積み上げるよりも、蛍の光のほうがきっと明るく実用的だろうとの想像はできる。それを先端技術によって、いっそう実用的に、いたいけな命を犠牲にすることもなく証明した人たちがいる。

東京大学の研究グループは、手で触れる空中ディスプレイ向けに3次元空間を飛び回るLED内蔵のミリメートルサイズ発光体(動画:YouTube)を作製することに成功。蛍のように光る故これに「ルシオラ(ゲンジボタルの学名)」と名付けたことをきょう公表した。

ルシオラは、人間の耳には聞こえない超音波の集束ビームにより空中浮遊し、高精度で移動する。直径4mmの極小LED光源であり、新たに開発した電池不要の無線給電によってエネルギーが供給される。「空中移動する小型電子回路内蔵発光体」の実現は世界初――。

その特長を生かしたデモでは、空中移動と無線給電オンオフのタイミングを合わせて制御することにより、空中の位置に応じてLEDを点灯・消灯し、3次元空間に文字や図形を表示したり、読者の視線の動きに合わせて本の上空を移動するマイクロ読書灯を可能にした。研究成果はJSTのERATO 川原万有情報網プロジェクトによって得られた。

空中ディスプレイの表現力をより高めるために、発光画素の多点化を予定している。同研究グループはこれにセンサ、アクチュエータ、無線通信機能等を追加し、空中移動可能な小型センサノードとしてIoT(モノのインターネット)分野へ展開する、研究に取り組んでいくという。

ルシオラの詳細は、コンピュータサイエンス論文誌「The ACM Digital Library」に掲載されている。