アルツハイマー病、新たな治療薬および予防法の開発に光明!

認知症患者の増加は、超高齢化が進む日本だけの問題ではない。世界では現在およそ4700万人が認知症に罹患していて、2050年にその数は3倍になるとの予測が海外機関から提示されている。

中でも日本は、他のOECD加盟国と比べて発症率が高いといわれている。内閣府の平成28年版高齢社会白書(概要版)によると、'12年の認知症患者数は462万人。当時65歳以上の高齢者7人に1人(有病率15.0%)であったものが、'25年には約700万人、5人に1人になると見込まれている。認知症の治療、予防および診断法の確立は喫緊の課題となっている。

認知症の半分以上はアルツハイマー病(AD)によって生じることが示されている。これまでの研究から、神経細胞が分泌するアミロイドβと呼ばれるタンパク質が老人斑として蓄積し、神経細胞内に存在するタウ(タンパク質)の異常凝集を引き起こして神経細胞死に至ることがADの原因と考えられていて、近年、アミロイドβやタウを標的とした創薬が進められている。

他方、脳に存在する神経細胞以外の細胞のうち、その大部分を占めるグリア細胞の一つ、アストロサイト(星状膠細胞)が、神経機能に対して様々な影響を及ぼしていることが注目を浴びている。が、ADにおけるアストロサイトの病的意義については不明な点が多く残されていたという。

東京大学大学院薬学系研究科の研究グループは、アミロイドβを分解する新規酵素kallikrein-related peptidase 7(KLK7)を同定し、脳内ではアストロサイトが分泌していること、AD患者脳ではその発現量が低下していること、遺伝子をノックアウトしたモデルマウスにおいてはアミロイドの蓄積が亢進することを明らかに――。さらに、アストロサイトにおけるグルタミン酸シグナル(興奮性シナプス伝達に直接寄与)を抑制することでKLK7の発現量と分解活性を上昇させられることを見出した。

KLK7の活性化メカニズムの解明に加えて、アストロサイトがKLK7を介してアミロイドβ代謝及び蓄積に寄与――ADにおけるその病的意義が不明であったアストロサイトが脳内アミロイドβ量や蓄積に積極的に関与していることを、薬理学的、遺伝学的な解析によって明らかにした。研究成果は、「EMBO Molecular Medicine」誌に掲載されていて、今後、アストロサイトを創薬標的細胞とした新規アルツハイマー病治療・予防法、診断法の開発に繋がることが期待される。

今回の研究は、日本学術振興会、文部科学省、日本医療研究開発機構(AMED)、第一三共生命科学研究振興財団、小野医学研究財団、武田科学振興財団、細胞科学研究財団による支援のもと、東京大学院医学系研究科、第一三共、新潟大学脳研究所、理化学研究所脳科学総合研究センターと共同で行われたとのことだ。