佐藤-カールトン綾 生命科学研究科研究員、中村-田淵千紘 同技術補佐員、シャテラン・ステファン 同技術補佐員、内野智樹 同技術補佐員、カールトン・ピーター 同准教授らの研究グループが成功。研究成果は、米国の学術誌『Journal of Cell Biology』に掲載された。
卵子や精子を生み出す細胞分裂は「減数分裂」と呼ばれ、母方由来と父方由来の相同染色体と姉妹染色分体を二回連続して分離することで、細胞中のDNAの量を半分にする特殊な細胞分裂だ。減数分裂を制御するタンパク質に不具合が生じると、正常に染色体を分離することができなくなり、正常な卵子や精子を作ることができない。
人間の場合、減数分裂における不具合は不妊、流産などの問題や、染色体数異常につながるという。減数分裂で染色体を正しく分離するためには、減数分裂前期、分離に必要なタンパク質群を分離面に集積させておくことが必須だが、この分子メカニズムには未知の部分が多く残されていた。
線虫のSYP-1タンパク質は、哺乳類における減数分裂タンパク質SYCPと同様の働きを、線虫の生殖細胞において担っていると考えられている。このタンパク質は、減数分裂前期に相同染色体同士の間に構築されるシナプトネマ複合体の中央部に位置するタンパク質だ。様々なモデル生物において、シナプトネマ複合体タンパク質群の多くが減数分裂前期にリン酸化修飾を受けることが知られていたが、その生物学的意義には謎が多く残されていた。
研究グループでは、線虫でSYP-1タンパク質がリン酸化修飾を受ける箇所を確かめ、さらにリン酸化修飾が受けられないSYP-1変異株を作製し、減数分裂においてどのような影響が現れるかを調査した。また、リン酸化修飾を受けたSYP-1タンパク質のみを特異的に検出する抗体を作製し、リン酸型SYP-1の細胞核内での挙動を解析。
その結果、減数分裂前期においてリン酸型SYP-1が染色体分離面に集積すること、この集積が染色体分離を引き起こす下流のタンパク質を分離面に誘導することを明らかにした。この研究によって、染色体の正常な分離を保障するタンパク質の反応連鎖を明らかにすることができたと説明する。