細胞フリーの合成膜タンパクで薬物感受性の記録に成功、世界初!

ヒトの心筋に発現するタンパク質であり、心筋活動に影響を与えるカリウムイオンの通り道を「hERGチャネル」と呼ぶ。同チャネルに適切に作用する薬剤は"くすり"として使えるが、それが予期せずチャネル形成を抑制するような場合には、重篤な副作用を引き起こしてしまう。

ゆえに薬剤の効果と副作用を効率よく調べるスクリーニング系の開発が強く望まれているという。東北大学、東北福祉大学、埼玉大学の教授らの合同研究チームは、半導体微細加工技術と無細胞合成技術との融合により、hERGチャネルの薬物感受性を記録することに成功した。

人体を構成する細胞を覆う極薄膜――脂質二分子膜をイオンが通り抜けるチャネルについて、東北大学の研究グループはその膜を人工的に形成し、そこにイオンチャネルタンパク質を埋め込む技術の開発に取り組んできた。わずかな外力によっても壊れる脂質二分子膜は、その保持体となる半導体チップの作成が困難であり、イオンチャネルタンパク質の調製も非常に難しかった。ところへ今回、新たに半導体微細加工技術を活用して高精度な保持体作製プロセスを構築。耐久性に優れた脂質二分子膜の高確率形成を可能にした。

一方、埼玉大学の研究グループは、小麦胚芽の抽出液を用いることにより、様々な薬と副作用的に反応することが問題となっている心筋のhERG チャネルタンパク質を、細胞を用いず大量に合成することに成功した。

上記2つの研究成果を組み合わせ、合同チームは、無細胞合成したhERGチャネルタンパク質を安定化脂質二分子膜中に埋め込み、その薬物反応性を1分子レベルで記録することに世界で初めて成功。hERGチャネルタンパク質は、その遺伝子型と薬物副作用との関連性も示唆されていて、個別化医療を指向した薬物スクリーニングの加速が期待される。

今回の成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。