東北大学大学院農学研究科「食と農免疫国際教育研究センター」の新實香奈枝(博士課程後期大学院生)、宇佐美克紀(博士課程前期大学院生)、野地智法准教授、麻生久教授および、東京大学医科学研究所の清野宏教授らの研究グループ。研究成果は、国際科学雑誌『Mucosal Immunology』電子版に掲載された。
外分泌器官の一つである乳腺は、唾液腺などの他の外分泌器官と比べ、その機能・形態形成機序が非常に特殊であり、性成熟後に導管が形成され、妊娠・出産を経ることで乳腺房構造が発達し、初めて機能する。
また、この乳腺特有の機能や組織構造は、離乳後、速やかに失われる。乳腺の主たる機能は、母から子への栄養素や移行抗体の供給であり、これは哺乳動物において欠かすことのできない生命現象の一つだ。一方で、授乳期の乳腺は、高い頻度で炎症反応を呈することが知られており(ヒトでは乳腺炎、ウシでは乳房炎と呼ばれる)、これは、哺育や牛乳生産の大きな妨げとなる。
今回、研究グループは、免疫学的、微生物学および形態学的手法を駆使し、マウスの乳腺を妊娠・出産・授乳・離乳期から成る生殖サイクルを通して観察することで、免疫および微生物環境に関する、乳腺特有のダイナミックな環境変化とその制御機構の一端を明らかにした。
乳腺に免疫システムが発達する、特に、抗体の一つのサブクラスである免疫「グロブリンA(IgA)」が産生される際には、乳腺にIgAを産生する形質細胞が遊走することが必須。今回、この細胞遊走機序が、子が乳を飲む際の刺激に依存したものであり、同時期の乳腺に認められる微生物がもたらす刺激に依存したものではないことを突き止めた。
一方で、授乳期の乳腺には、多数の細菌からなる微生物叢が発達していることも明らかにした。このことは、良好な哺育ならびに乳腺での疾病制御を可能にするためには、乳腺の免疫および微生物環境の質の向上を目的としたアプローチが重要であることを示唆するものであり、また、ヒトの乳腺炎や乳牛の乳房炎を予防するための新たな着眼点をもたらすと期待されるという。