天然炭素資源の有効利用に役立つ、人工酵素の活性メカニズムを解明

科学技術振興機構(JST)は、安定な「C-H結合」を触媒的にC-OH結合に変換する「マンガンポルフィセン」と「ミオグロビン」を複合化した人工酵素の反応活性種を観測し、「マンガン5価オキソ種」であることを世界で初めて明らかにしたと発表した。

大阪大学 大学院工学研究科の大洞 光司 助教授、林 高史教授らの研究グループと、兵庫県立大学 大学院生命理学研究科 城 宜嗣教授、理化学研究所 放射光科学総合研究センター 杉本 宏専任研究員との共同グループが成功。研究成果は、米国科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』電子版に掲載された。

これまで天然炭素資源などの利用において、炭素と水素の結合(C-H結合)は非常に安定であり、反応性が乏しく有用物質への変換において大きな問題となっていた。この安定なC-H結合を効率的にC-OH結合に変換する水酸化能を有する天然酵素が注目されてきたが、その高い活性が理由で反応活性種の解明は困難と考えられており、酵素の反応メカニズムの解明やさらなる改良に重要であるにもかかわらず、活性種は非常に限られた系でしか解明されていなかったという。

今回、研究グループは、活性種を得るためにストップトフロー法という手法を用いて、安定なC-H結合を効率的にC-OH結合に変換するマンガンを含む人工酵素の活性種がマンガン5価オキソ種であることを世界で初めて同定した。さらに得られる反応活性種が、天然酵素のような複雑なタンパク質環境を必要とせずに安定なC-H結合を室温で水酸化可能であることを示した。

研究グループによると、今後の人工酵素の設計が可能になり、複雑な有機化合物の位置・立体選択的な水酸化や豊富な天然炭素資源の有用物質への効率的変換に貢献できると説明する。