シンプルな数式で移動ロボットがクモヒトデの複雑な動きを表現

近年、移動ロボットは、災害現場や宇宙環境などの人間が到達できないような過酷な環境下でも適切に機能することが期待されている。そこで問題となっているのが、多くのロボットは少しでも故障が起こるとその影響がロボット全体におよび、たちまち機能が破綻してしまうということだ。

科学技術振興機構(JST)は、想定外の故障に対して即座に適応できる移動ロボットの開発に世界で初めて成功したと発表した。東北大学 電気通信研究所の石黒 章夫教授、加納 剛史 准教授、佐藤 英毅氏(大学院修士課程、当時)、小野 達也氏(大学院修士課程、当時)、北海道大学 電子科学研究所の青沼 仁志 准教授、東北大学 大学院医学系研究科の松坂 義哉講師(現 東北医科薬科大学 教授)の研究グループが成功。研究成果は、英国の科学誌『Royal Society Open Science』電子版に掲載された。

移動ロボットが未知の実世界環境下で動き回るためには、ロボットの一部が故障してもリアルタイムに適応し、移動能力を維持することが不可欠だ。しかし、従来のロボットは想定外の故障に適応するのに数十秒から数分もの時間を要していた。

この問題解決のため今回の研究では、原初的な棘皮(きょくひ)動物であるクモヒトデに着目。クモヒトデには「脳」のような高度な情報処理を担う中枢神経系はなく、放射神経と呼ばれる単純な神経系しかないにもかかわらず、5本の柔軟な腕を適切に協調させて推進することが可能だという。さらには、外敵に襲われるなどして腕を失った際、残った腕が何本であろうともそれらを即座に協調させて推進し続ける。このようにクモヒトデは、驚異的な耐故障性を有している。

研究では、腕を除去あるいは短くしたクモヒトデの観察結果をもとに、「各腕が環境から進行方向側に反力を受けたときにのみ地面を蹴る」という、極めてシンプルな数式で記述される自律分散制御則を設計した。この制御則をクモヒトデ型ロボットに実装したところ、腕をどのように破壊しても数秒以内に適応して動き続けることができという。

この成果は、想定外の事象に対処可能な適応能力の高いロボットを実現するための基盤技術を提供し、災害現場などの過酷な環境下でも機能できる移動ロボットの実現へと道を切り拓くと期待される。また、動物が身体の一部に傷害を負ったときに、身体の協調の仕方を適切に変えて動く原理の解明にもつながると期待できる。