生命の謎に迫る、遺伝子複製を進めるタンパク質の機能あきらかに

この星で生きているものは3つの領域に分けられる。食品や薬品のCMなどでおなじみの微生物/真正細菌の「バクテリア」、人間を含む動植物が属する真核生物の「ユーカリア」、そして極限環境に存在する古細菌の「アーキア」は第3の生物とも呼ばれている。

現代に分子生物学が発展し、ゲノム(遺伝子+染色体)解析が進んだことにより、遺伝子本体であるデオキシリボ核酸(DNA)が有する情報、およびDNAとともにタンパク質生合成に関与するリボ核酸(RNA)の全容が明らかとなった。生物はその遺伝子配列すなわち進化系統に基づいて、上記3ドメインに分類された。なかでも、深海底の熱水噴出口や塩湖などにも生息する「アーキア」は近年、世界の研究者らの注目の的である。

真核生物ユーカリアの性質、タンパク質を体系的に符号化する遺伝子を持つことが判明しつつあり、バクテリアと同様核を持たない細胞からなる原核生物でありながら、それはユーカリアのルーツではないかと――。

そして日本において、アーキアのDNA複製・修復・組換えからなる遺伝情報維持機構の解明に挑んでいる。京都大学およびと九州大学教授らの研究グループはきょう、アーキアに属する超好熱細菌に存在し、極限環境でDNA複製の安全管理を行うCdc45/RecJファミリータンパク質の機能を解明したことを公表した。

二本錯DNAが一本錯に分離して複製開始点の両側に1つずつ形成される、Y字型のDNA複製フォーク(形からそう呼ばれる)の進行・再開を、2つのCdc45/RecJが制御している。ファミリーに属するタンパク質のうち、真核生物のCdc45はDNA複製反応の進行を担い、真正細菌のRecJはDNA分解酵素としてDNA修復・組換えに働くことがわかっていたという。同研究グループは今年8月、摂氏100度のなかで生きる超好熱細菌T. kodakarensisに存在する2種類のタンパク質の一方に「GAN」と名付け、これがDNA複製進行装置の構成因子であると報告。そして今回、もう一方の「HAN」と名付けたタンパク質の役割を提唱した。

HANは、複製反応を進行させるCdc45やGANとは異なり、何かの原因により複製反応が停止した際に、素早く修復して複製反応を再開するために働いていることを実験的に示した。研究グループのひとりがこう語る。
「超好熱性アーキアを用いて、生化学的手法と遺伝学的手法を用いて、DNA複製フォークが正しく進行する仕組みの一端を解明できたと思います。生命の起源にもっとも近いと言われる超好熱菌の研究からは、生命現象の原理が見えてくると期待しています」

今回の研究成果は、英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載された。