産総研環境管理研究部門 金 誠培 主任研究員、慶應義塾大学理工学部応用化学科 鈴木 考治名誉教授、ダニエル チッテリオ教授、西原 諒(博士後期課程)らの共同研究グループが成功。研究成果は「Scientific Reports誌」電子版に掲載された。
従来、生物発光酵素は、おおむね同じ発光基質を共有することが常識であった。例えば、ホタルを含む昆虫由来の生物発光酵素類は一般的に「D-ルシフェリン」を共通の基質とする。しかし、このような発光特性はバイオアッセイで2つ以上の生物発光酵素を用いることを難しくするという。バイオアッセイとは、生物材料を用いて生物学的な応答を分析するための方法のこと。
例えば、2つ以上の生物発光酵素が共通の基質を光らせた場合、互いの発光スペクトルが重なるため、発光信号のコンタミ(試料汚染)が起こる。従来の光学フィルターでは、完全な発光信号の分離は困難であり、分離できたとしても発光輝度を弱める問題点があった。バイオアッセイで多数の発光酵素を同時に用いることができれば、高いサンプル処理能など、バイオアッセイの効率を大きく高めることができる。
共同研究チームは、これまでの常識を覆す新たな挑戦として、発光酵素に対してそれぞれ選択的に発光する発光基質類の分子設計と開発に成功した。その結果、バイオアッセイにおいて汎用的に用いられているウミシイタケ由来の発光酵素(Renilla luciferase; RLuc)類や発光プランクトン由来の人工生物発光酵素(artificial luciferase; ALuc)類に選択的に発光する基質類の合成と生細胞実証に成功した。
産総研では、今回の成果をベースにさらなる高性能発光基質の合成を行う予定。より長波長で発光する発光基質が開発できれば、発光信号の組織透過性が改善される。また、人工生物発光酵素の立体構造を解明することで、生物発光が持つ発光反応を理解する重要な手がかりになると期待しているという。