ビールの苦味、認知機能を改善

先進各国に共通する社会的な課題。それは高齢者の増加に伴う、アルツハイマー病などの認知症の予防だ。 厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」総合サイトによると、日本において認知症患者は右肩上がりに増え続け、2020年までに325万人になるとされている。そのため同省では、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」のもと、さまざまな施策を推進している。

認知症は十分な治療方法がまだなく、食事や運動などでの予防が注目される。疫学などの研究では、適度な量の酒類の摂取はその防御因子となることが報告されているという。キリンの健康技術研究所は、東京大学、学習院大学と共同で、ホップ由来のビール苦味成分であるイソα酸が、低下した認知機能を改善することを世界で初めて解明した。

これまでも東京大学とビールの苦味成分であるイソα酸のアルツハイマー病予防効果に関する研究に取り組んできていた。同社は今回、学習院大学も交えた研究で、アルツハイマー病を発症し認知機能が低下した状態のマウスに7日間イソα酸を投与。そして、脳の中でも特に記憶に重要な領域である海馬の活動異常が改善することをマンガンMRI測定により見出した。

新規空間探索時の脳内の神経活動を評価。アルツハイマー病の原因物質とされるβアミロイドの量、海馬におけるサイトカインなどの炎症物質を測定した。その結果、特に海馬CA1領域において、アルツハイマー病発症群に健常群よりも活動異常が確認され、イソα酸投与群ではその異常が改善――。可溶性βアミロイドの量が低下し、海馬における脳内の炎症が緩和された。

行動薬理学的に評価した結果、認知機能が有意に改善した。イソα酸は短期的な投与で脳内炎症を抑制し、海馬の活動を改善することで認知機能を改善することが示唆されたという。研究成果は、26日まで開催の「第36回日本認知症学会学術集会」にて発表される。