コバルト薄膜による光スイッチ実用化へ

英国の化学・物理学者であり、塩素の液化、ベンゼンの発見をしたファラデーは、「右ねじの法則」として知られる電磁誘導の原理を導出。それは今もモーターや発電機などで応用されている。

そしてまた彼は、光を一方向のみに伝える光アイソレータに利用されるファラデー効果の発見者でもある。

高速通信等で使われるレーザーからの反射戻り光を阻止するなどの重要な役割を担っている光学素子――光アイソレータに用いられているそれは、磁気旋光とも呼ばれる。二枚の偏光板を重ねて一方を回転させると、透過光が明るくなったり暗くなったりする。偏光板は特定の偏光面を持つ光しか通さない。そのため、一枚目の偏光板で偏光面が揃った光が二枚目の偏光板を透過するかどうかは、両偏光板の相対角度に依存する。一方で、偏光面の回転は光が透過する物質の磁気的性質とも深く関わっていて、大きな電力を使って発生する磁界が主な制御手段とされてきたという。

東京大学の大学院生および大学院准教授、豊田工業大学の教授、電力中央研究所の上席研究員、東北大学の准教授らの研究チームは、自然界では磁石として存在するコバルト(金属)を薄膜にし、その磁力を電気的にオンオフする技術を用いて、ファラデー効果自体のオンオフに成功したことをきょう公表した。

偏光面の回転そのものが、磁界ではなく電気的に制御できる。これにより、偏光板との組み合わせで、光の透過強度を少ない電力で電気的に制御できるようになった。研究では、1ナノメートル以下の非常に薄いコバルト膜を用いているため、十分に光が透過する。また、膜を支える基板には透明なガラスを用いていて、コバルトの下地金属や電極にも工夫を施しているために、素子を光が透過できるようになっている。

現段階では回転角の制御量が実用レベルよりかなり小さいという課題がある。これは、コバルトを薄くしなければ光が透過しないという根本的な問題(ファラデー回転角は一般的には磁性体の厚みに比例して大きくなる)によるものだが、問題を克服するいくつかの改善策も検討していて、今後それらの検証を行っていく予定だという。

科研費基盤研究(S)の助成を受けて実施された研究成果は、17日に「Applied Physics Express」(オンライン版)に掲載されるとのこと。
すでに広く利用されている金属の磁石の膜を使った素子にもともと組み込まれた電極を用いて電圧を加える、というシンプルな構造で透過光を制御できるため、光通信を支える光素子の性能向上や小型化・集積化・省エネ化に重要な役割を果たすことが期待される。