動脈スティフネスは加齢とともに増大する。心血管系疾患の一次予防として、硬さの維持と改善が重要視されている。有酸素運動を中心とする身体活動を習慣的に行うことで、動脈スティフネスを維持・改善できることが報告されている。しかしこれらは、運動習慣のある群と運動習慣のない群の比較や、数カ月程度の運動介入実験から得られたもので、同一人物にて長期間にわたって運動習慣の効果を検証した報告は皆無だったという。
産総研の研究グループは、成人92名を対象に10年間の追跡調査を行い、血管収縮を制御するエンドセリン(ET)受容体の遺伝子多型のパターンによって、動脈スティフネスの加齢に伴う進行度が異なること、そして、有酸素運動を習慣的に行っている場合では動脈スティフネスの加齢に伴う進行度が、運動習慣のない場合の1/3以下だったことを、きょう明らかにした。
'03~'05年に動脈スティフネスを計測した成人92名(男性51名、初回参加時52±14歳)を対象に、'13~'15年にそれを再測定するとともに、質問により習慣的な有酸素運動量を1週間当たりの消費カロリー(METs×時間)として推定。ET-A受容体とET-B受容体の一塩基配列変異多型を調べた。結果、ET受容体の遺伝子多型のパターン間で有意差がみられた。ET-A受容体がT/C型またはC/C型の場合、ET-B受容体がG/G型の場合をETに関連する遺伝子リスクとみなすと、リスク保有数が増加するほど、baPWV(上腕-足首間,脈波伝播速度)の増加量は段階的に増大し、リスク保有数0の場合に比べて、リスク保有数2の場合では、10年間の増加量が2.5倍以上であったという。
1週間の有酸素運動量が5METs×時間未満(低活動群)、5METs×時間以上で15 METs×時間未満(中活動群)、15 METs×時間以上(高活動群)の3群で比較すると、高活動群は他の2群に比べて、10年間のbaPWV増加量が1/3以下に抑えられていた。さらに、ET関連遺伝子リスク数と有酸素運動の実施レベルは、それぞれ独立してbaPWVの変化量に影響を与えている――遺伝的リスクを持っていても、習慣的な有酸素運動によって、動脈スティフネスの加齢に伴う増大を抑制できることも確かになった。
これまで医学会などに推奨されていた、速歩やジョギングを1日30~60分、週に4~5日のペースで行うことの有効性が、長期の追跡調査で始めて実証された。研究成果は、米国学術誌「Journal of Applied Physiology」(電子版)に掲載された。