細胞周期の間期を識別する技術を開発、理研

理化学研究所(理研)は、細胞周期をより細かく色分けする新しい蛍光プローブ「Fucci(CA)」を開発したことを発表した。細胞周期の間期(G1・S・G2)を3色で識別する技術で再生医療などへの応用を目指す。

脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームの宮脇敦史チームリーダーと阪上(沢野)朝子研究員らの共同研究グループが開発。米国の科学雑誌「Molecular Cell」電子版に掲載された。

細胞は、細胞周期に沿って成長と分裂を実行することで増殖する。細胞周期の進行の制御はあらゆる生命科学において注目され、生物個体や細胞・組織培養系において、個々の細胞が細胞周期のどの位相にあるかを調べる技術が求められている。2008年に宮脇チームリーダーらが開発した細胞周期をリアルタイムに可視化する蛍光プローブ「Fucci(フーチ)」は、世界中の研究者に利用されている。

Fucciは細胞周期のG1期を赤の蛍光色に、S/G2/M期を緑の蛍光色に標識する蛍光プローブだが、S期とG2期を色分けすることはできなかった。また、G1期標識の反応にはある程度の時間がかかるため、高速に増殖する細胞種の短いG1期は検出できないという問題点があった。

今回、共同研究グループは、Fucci技術の作動原理である「細胞周期依存的ユビキチン介在タンパク質分解」を多様に改変することで、Fucci(CA)を新たに開発した。Fucci(CA)は、細胞周期の間期であるG1期・S期・G2期をそれぞれ赤・緑・黄の3色で識別する。通常の光学顕微鏡で蛍光シグナル分布を併せて観察すればM期も識別でき、四つの細胞周期全てを光学的に分離することができる。実際にFucci(CA)を用いて、培養細胞の紫外線に対する感受性がS期に最も高いことを明らかにした。

さらに、Fucci(CA)は分裂直後からG1期を標識できるため、高速に増殖する未分化性マウスES細胞(胚性幹細胞)の細胞周期においても、極端に短いG1期を含めて確実に検出できることが分かった。

研究グループによると、Fucci(CA)は哺乳類動物を扱うあらゆる生命科学分野で応用が可能だという。がん、発生・再生研究だけでなく、動物脳における神経新生の検出、宇宙空間における細胞増殖の観察などにも適用が予定されている。今後、ヒトのES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療および薬剤スクリーニングにおいての活躍も期待できると説明する。