半世紀の夢、鉄とニッケルの超格子磁石が実用化へ
日常生活においても、扇風機、エアコン、冷蔵庫、掃除機、換気扇、自動ドア、オートロック、保育園への送迎に使う電動自転車など、磁石を内蔵したモーターは色々なところで活躍している。日本における総消費電力の過半はモーターが占めている。今、自動車の電動化に伴い、モーター需要の拡大が予想されているため、中長期的なエネルギー需給戦略において、モーターの省エネ化は最重要課題の一つだという。
新エネルギー・産業技術総合開発機構はきょう、MagHEMの組合員であるデンソーの先端技術研究所が主体となって、東北大学 金属材料研究所と構造解析を、筑波大学 数理物質系と合成方法の開発を行う産学連携グループにおいて、50年以上に渡って誰も成し得なかった、鉄とニッケルが原子レベルで規則配列したFeNi超格子磁石材料の高純度合成に、世界で初めて成功したと発表した。
NEDOの「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」プロジェクトにて、MagHEMでは、供給リスクの高い重希土類元素(主にジスプロシウム)や希土類元素(主にネオジウム)を使用しない、レアアースフリーの革新的高性能磁石の開発に取り組んでいる。ネオジム磁石に匹敵する磁力を持ち、磁力を失うキュリー温度が550℃以上と高いために車載モーター用磁石として期待されている、FeNi超格子は、'60年代に鉄隕石中から発見されたが、これまで、結晶の規則度を高め磁石性能を上げられなかった。
ランダム合金を熱処理し、原子を拡散させる一般的な手法をFeNi超格子に用いた場合、熱処理温度が320℃以下と低く、規則化には10億年以上と天文学的な時間を要する。ゆえに、拡散を促進するアプローチとして中性子照射、高圧ひずみ加工、アモルファス金属のナノ結晶化などが提案されてきたが、規則度もしくは含有率が低いといった課題が残されていた。
今回、規則化した安定中間物を経由した規則合金形成プロセスであるNITE法を新たに考案――。同法では、原料である「FeNiランダム合金」の粉末を窒化することで、規則化した「FeNi窒化物」を合成し、その後、規則構造を壊すことなく窒素原子を引き抜くトポタクティック脱窒素により、短時間で高い規則度の「FeNi超格子」を得ることができた。
窒化はアンモニアガスとの反応、トポタクティック脱窒素は水素ガスとの反応によって行う。これらは非常にシンプルなプロセスであることから、工業的な生産に適しているという。研究成果は、英科学誌ネイチャー「Scientific Reports」に掲載された。