九大、歯周病原因菌の出す酵素がアルツハイマー病型認知症の悪化に影響することを解明

九州大学は、歯周病原因菌である「ジンジバリス(Pg)菌」が出す「歯周組織破壊酵素ジンジパイン」が、ミクログリアの移動ならびに炎症反応を引き起こすことを突止めたと発表した。

九州大学大学院歯学研究院の武 洲准教授、中西 博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」電子版に掲載された。

近年の研究では、歯周病がアルツハイマー病患者の認知機能を低下することが明らかになっているが、その詳細なメカニズムは不明であった。研究グループは2017年6月、Pg菌の主な病原因子であるリポ多糖によるミクログリアのToll様受容体活性化がリソソーム酵素カテプシンB依存的に慢性的な脳炎症を誘発し、中年マウスの学習・記憶低下を引き起こすことを報告した。しかし、Pg菌のミクログリアに対する作用の全容は解明されていなかった。

今回の研究では、Pg菌のもう一つの主な病原因子であるジンジパインのミクログリアに対する作用を検討した。脳内にPg菌を微量注入すると、ミクログリアは注入部位周囲に移動する。この反応はジンジパイン阻害剤によってほぼ完全に抑制された。

培養系でもPg菌によりミクログリアの移動が引き起こされ、ジンジパイン阻害剤でほぼ完全に抑制された。一方、リポ多糖はミクログリアの移動に関与しなかった。さらに、ジンジパインはミクログリアのプロテアーゼ活性化型受容体(PAR2)を活性化し、下流の2つのシグナル伝達経路を介して移動に必要な細胞骨格変化を引き起こすことが明らかになった。また、Pg菌によるミクログリアが起因する脳炎症には、リポ多糖によるToll様受容体の活性化と、ジンジパインによるPAR2の活性化が関与していた。

今回の研究から、Pg菌から分泌されるジンジパインは感染早期におけるミクログリアの反応である移動ならびに炎症反応を引き起こすことが分かった。これらのことから、リポ多糖に加え、ジンジパインは歯周病によるアルツハイマー病型認知症の悪化に関与するPg菌の病原因子である可能性が示唆された。

ジンジパインは末梢血管での透過性を高めることが報告されており、ジンジパインが血液脳関門の透過性を高めることで、Pg菌の脳内への浸潤を引き起こしている可能性が考えられる。研究グループでは、今後もPg菌とその病原因子の脳内浸潤メカニズムについて解析を進めたい考え。ジンジパイン阻害剤が歯周病のアルツハイマー病に及ぼす悪化作用を抑制する可能性についても検討するという。