熱した金属をゆっくり冷却して、原子の内部エネルギーがより極小化された結晶を得る。アニーリング(焼き鈍し)の手法をコンピュータサイエンスに適用――膨大な入力の解を求めつつその探索範囲を徐々に絞って高精度の最適解を得る、疑似アニーリング法は1980年代に考案された。
計算機において、金属の温度をゆっくり下げるように、探索に時間を掛ければ最適な解の精度が得られる。速く動作させれば計算時間を短くできるが解の精度は悪くなる。分子類似性比較やポートフォリオ最適化など新たな問題にアニーリング法を用いる際、問題の種類ごとに最適なパラメータ設定を見いだしておけば、その種類の問題を高速に計算できる。が、短時間で高い精度の解が得られる最適パラメータを得る準備には、その設定を変えつつアニーリング計算を数万回以上、計算に数週間費やすことがあった。
様々な組合せの中から最適解を選択したいという要求は、実社会のあらゆる分野にて存在する。組合せ最適化問題は、考慮する要因の数が増えると組合せの数が爆発的に増えるため、従来のプロセッサでは高速に解けなかったという。富士通研究所は、昨年発表した新アーキテクチャ――組合せ最適化問題を高速に解く「デジタルアニーラ」において、複雑なパラメータ設定を行わずに問題を解く技術を開発した。
デジタルアニーラ内部で演算中の状態を観測した結果に基づいて、パラメータを自動制御する回路を組み込むことにより、複雑なパラメータ設定の必要がなく十分な精度の解の出力が可能となる。今回の技術により、新材料を探索する際の分子類似性比較問題やポートフォリオ最適化問題において、2週間程度を要していた準備期間を1日未満にまで短縮できることを確認した。
この技術を来年前半に実用化し、化学、金融、エネルギーや流通など様々な分野の組合せ最適化問題に適用することで、新規ビジネス創出に貢献していくと同社はいう。