神経細胞を正常に増やせる、化合物を発見!

書道やダンスなど芸術分野で天分を輝かせる人がいる。一方、同じ疾患を抱えるほとんどの人はその才能を開花させる機会に恵まれず、まっすぐな心で家族とともに曲がりくねった山道を歩んでいる。世界に人種の壁がないことを我々に気づかせてくれる、ダウン症の人たちは、およそ1000人にひとり――。

約1/1,000の確率で発生し、最も多い染色体異常と言われている。知的障害や先天性心疾患など様々な合併症を伴う。ダウン症候群(ダウンシンドローム)は体細胞の21番染色体が1本多く計3本あることで、過剰な遺伝子の働きにより引き起こされる。同シンドロームの出生前診断が可能となっているが、根本的な治療法はまだない。

21番染色体上のどの遺伝子が同シンドロームの症状に寄与する過剰な遺伝子かが特定できれば、遺伝子産物のみをブロックする薬剤開発が可能になると考えられという。京都大学 小林亜希子 医学研究科助教、萩原正敏 同教授らの研究グループは、ダウン症(21トリソミー)で神経細胞数の増加を抑えている遺伝子を特定し、その機能を妨げることで神経細胞を正常に増やすことができる化合物を発見した。

ダウン症で低下している神経幹細胞の増殖を促進する化合物を探索し、候補化合物アルジャーノン(ALGERNON:altered generation of neuron)を取得。DYRK1A(Dual-specifity tyrosine phosphorylation-regulated kinase 1A)の働きを抑制する活性をもつ、アルジャーノンをダウン症iPS細胞に加えると神経幹細胞が正常に増えるようになった。

また、上記アルジャーノンをマウスに投与すると、神経幹細胞の増殖を促すことが確認された。妊娠マウスにアルジャーノンを投与したところ、ダウン症マウス仔の大脳皮質の形成異常および低下した学習行動が改善された。このことは、胎児期にアルジャーノンを投薬して神経幹細胞の増殖を促すことにより、神経幹細胞の増殖低下により引き起こされる脳構造の異常を改善できる可能性を提示しているという。

今回発見した神経幹細胞の増殖を促進する化合物アルジャーノンは、神経幹細胞が発生期だけでなく成体(大人)にも存在することから、神経新生の関与が示唆されている学習・認知分野(アルツハイマー病など)やうつ症状、神経細胞が脱落する神経変性疾患(パーキンソン病、ハンチントン病など)、脊椎損傷など、他の疾患への適用が期待される。

日本学術振興会(JSPS)科学研究費、厚生労働省厚生労働科学研究費、日本医療研究開発機構(AMED)、持田記念医学薬学振興財団の支援のもとに行われた。同研究の成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。