ヒトiPS細胞にて、NK細胞の攻撃を回避

'70年代に発見された。ナチュラルキラー(NK)細胞は、抗原の感作なしに腫瘍・ウィルス感染細胞などへ強い細胞傷害活性を示す。

異常を発見すると真っ先に単独攻撃を仕掛ける細胞であり、副作用のない免疫細胞療法に用いられている。一方、再生医療分野において免疫システムは厄介だ。

現在、同分野では、良質のiPS細胞を作ってそれを多くの患者に使う戦略(iPS細胞ストック事業)がiPS細胞研究所(CiRA)を中心に進められている。この事業では、患者自身ではなく、他人から作製されたiPS細胞が用いられる。HLA(ヒト白血球抗原)型をある程度合わせる工夫がされているものの、NK細胞が拒絶反応を起こしうるなど、さまざまな免疫学的問題点は残っている。

白血球の血液型であるHLA遺伝子が、父方および母方由来の2セットについて同一(HLA-ホモ)である人からiPS細胞を作製すると、片方だけ同じセットを持つ人(HLA-ヘテロ)に再生組織を移植した場合に、拒絶反応が起こりにくいとされる。だが、免疫系による拒絶反応を完全に回避するのは難しいという。京都大学の河本宏 ウイルス・再生医科学研究所教授、一瀬大志 生命科学研究科特定研究員らの研究グループは、HLA研究所と共同で、ヒトiPS細胞から再生した細胞をNK細胞が殺傷することを示し、さらにその反応を抑制する方法の開発に成功した。

同研究グループは、HLAの中のHLA-Cという分子を出していない細胞を殺傷する特性を持っているNK細胞が起こしうる免疫反応について調べた。HLA-CはHLA-C1型とHLA-C2型の2型に分けられ、仮想の移植細胞として今回、HLA-ホモでHLA-CがC1/C1型のiPS細胞から、リンパ球の1種であるT細胞あるいは血管内皮細胞を再生――。仮想の患者として、HLA-ヘテロかつC1型とC2型の両方のHLA-Cを有する健常人からNK細胞を採取し、再生細胞を殺傷するか否かを調べたという。

結果、NK細胞による再生細胞の殺傷が明らかになった。すなわち上記組み合わせで移植を行うと、拒絶反応が起こる可能性を示している。NK細胞は、再生細胞がC2型のHLA-Cを出していないことを感知して攻撃していた。そこで、再生細胞がC2型のHLA-Cを出すようにiPS細胞に遺伝子改変を加えることにより、NK細胞による殺傷が起こらなくなったとのことだ。

攻撃が起こりうる組み合わせはiPS細胞株によって異なるが、iPSストック事業で総じてみると30%の頻度で起こると予測でき、移植後により注意深い経過観察が必要と考えられる。HLA分子を導入する方法は、iPS細胞による再生医療の中で起こりうる移植片の拒絶反応の軽減に役立つ――。今後の再生医療分野において重要な道しるべになると期待される。

研究成果は、米科学雑誌「Stem Cell Reports」(電子版)に掲載された。