愛犬家に朗報!

犬は家族である。昔は番犬として玄関脇や裏庭に繋がれていることが多かったが、いまは屋内で飼い主とともに暮らしている。盲導犬や介助犬として、ひとの生活を支えていることも多く、ふつうの犬でも人の暮らしに潤いや張りを与えたり、仕事を手伝ったりする。

けれど犬は、寿命が短い。人よりも遙かにはやく、虹の橋を渡っていく。
散歩中、端整な顔立ちで愛想を振りまいていた、近ごろ見かけないと思っていた「タロちゃん」は、彼が大好きだった植込みからにゅっと現れたとき、尻尾がなかった。腰に大きな手術跡があり、聞けば腫瘍を切除したとのこと。「ママの愛で人へと一歩、進化したんだね」と慰めたが、半年もしない間に、そのとき笑みを浮かべたママの姿も散歩道で見かけなくなった。

人生のパートナーでもある犬の、死因の約3割は悪性腫瘍だ。特に高齢犬ではその傾向が高いと考えられる。腫瘍には現在、外科・放射線・化学の3大療法が主に用いられている。犬の体への負担や副作用、がん種と療法との相性等の面で制限を受ける場合も多く、3大療法に加えて新たな治療戦略の開発が望まれる。近年ヒト医療では、ニボルマブ(オプジーボ:抗PD-1抗体)に代表される「免疫チェックポイント阻害薬」が悪性黒色腫など多くのがん種にて著効を示し、免疫療法が第4の治療戦略として確立しつつあるという。

北海道大学動物医療センターの高木哲准教授、同大学院獣医学研究院の今内覚准教授および賀川由美子客員教授らは、これまで犬の悪性腫瘍にてもPD-L1の頻繁な発現を報告。(PD-1はがん細胞を攻撃するT細胞に現出する物質であり、PD-L1はがん細胞に現出する。両物質が結合すると、T細胞は攻撃を止める。)そこで、犬の免疫チェックポイント阻害薬としてラット―イヌキメラ抗PD-L1抗体を開発――。難治性の悪性腫瘍に罹った犬への臨床応用研究を行った。結果、口腔内悪性黒色腫と未分化肉腫(軟部腫瘍)に罹った犬の一部で明らかな腫瘍の退縮効果が確認された。悪性黒色腫では肺に転移後の生存期間を延長する効果も示唆されたときょう発表した。

融合タンパク質であり、ラット由来成分の低減により治療効果の持続や副作用の低減が見込まれる。上記キメラ抗体は、イヌ免疫担当細胞の活性化作用を保持。客観的奏効率は、悪性黒色腫で14.3%(1/7頭)、未分化肉腫で50.0%(1/2頭)であり、ヒトにおける抗PD-L1抗体薬の奏効率と同程度と考えられ、抗体投与によるアレルギー反応等の副作用は認められなかったという。

その一部は文部科学省科学研究費助成事業およびAMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)の支援のもと、東北大学と共同で行われた。

犬の難治性腫瘍の治療薬として期待できる研究成果は、英科学誌ネイチャー「Scientific Reprots」(電子版)に掲載された。