チンパンジーも物体の大きさの「平均」を理解している

場面全体の特徴の「平均」を抽出する能力の進化的な起源を探るため、チンパンジーを対象に複数の円の大きさの「平均」を知覚する能力を調査したところ、複数の物体の大きさの「平均」を抽出していることが分かった。京都大学が発表。

友永雅己 霊長類研究所教授、伊村知子 新潟国際情報大学准教授らの共同研究グループの研究。研究成果は、英国の総合科学誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」に掲載された。

人間は、群衆の表情や、鳥の群れの進行方向、店に並べられた複数の果物や野菜のおよその大きさなど、1つ1つの対象に注意を向けることなく、全体の「平均」の特徴を素早く抽出する能力を備えている。

このような能力は、ヒトでは遅くとも4、5歳頃から見られることが分かっていたが、ヒト以外の動物では調べられていなかった。ヒト以外の霊長類においても場面全体の視覚情報を素早く処理することは重要な能力だと考えられていたが、これまでヒト以外の霊長類や鳥類では全体的な特徴よりも個別の対象の特徴に注意を向けがちであることが繰り返し示されており、平均の特徴を抽出することが難しい可能性も考えられていた。

研究グループは、霊長類研究所の5個体のチンパンジーと18名の成人を対象に、2つの認知課題を実施。

1つ目の課題では、画面上に1個の円、12個の等しい大きさの円、4種類の異なる大きさの円を3個ずつ含む12個の円を左右に1秒間(ヒトでは0.5秒間)提示し、2つのセットのうち円の大きい方に触れると正解とした。

もし、チンパンジーやヒトが複数の円の大きさの「平均」を手がかりに選択することができるならば、1個の円を比較する条件と12個の円を比較する条件で正答率にほとんど差がないか、低くなることはないことが予想される。

その結果、ヒトもチンパンジーも、1個の円を比較するよりも12個の円で統計的に有意に高い正答率を示した。1個の円を比較する条件に比べ、12個の円を比較する条件の方が高い正答率を示したことから、ヒトもチンパンジーも複数の円の大きさの「平均」を知覚している可能性が示唆される。

2つ目の課題では、チンパンジーが「平均」ではなく、セットに含まれる一番大きな円(または一番小さな円)を手がかりに選択した可能性について検証。この結果からも、チンパンジーが個別の円の大きさを手がかりにして円の大きい方を選択していたわけではないことが分かったという。

これまで、ヒトとチンパンジーの全体的な情報処理には多くの相違点があると考えられてきたが、今回の研究成果から、複数の対象から特徴の「平均」を抽出する能力については、チンパンジーにおいても共有されている可能性が示唆された。

研究グループは「こうした基礎的な視覚の働きに見られるヒトとチンパンジーの類似性もまた、私たちの心の進化を考える上で極めて重要な示唆を与えてくれるものと期待する」とコメントしている。