創薬にもつながるタンパク質微結晶の新規構造解析に成功

京都大学は、日本初のX線自由電子レーザー施設SACLAの非常に強力な高エネルギーX線を用い、常温においてセレノメチオニンを導入したACGとStemという二種類のタンパク質のμmサイズの微結晶から、異常分散効果を用いて新規立体構造の決定に成功した。

中津 亨 薬学研究科准教授、岩田 想 医学研究科教授(理化学研究所グループディレクター)、山下 恵太郎 理化学研究所基礎科学特別研究員らの研究グループと、東京大学、高エネルギー加速器研究機構、大阪大学、高輝度光科学研究センターとの共同研究。研究成果は英国の科学雑誌「IUCrJ」電子版に掲載された。

SACLAや米国のLCLSといった強力なXFEL施設の整備に伴い、μmサイズの結晶を用いたタンパク質構造解析が行われてきた。しかし、既に類似のタンパク質の構造が判明しているタンパク質の解析例が多く、構造が全く不明なタンパク質の解析はあまり行われてこなかった。

また、SACLAは、SPring-8のような放射光施設に比べ約10億倍明るいX線を1秒間に最大60回、100兆分の1秒以下のパルスで出力できる。そのため、従来は超低温で行われていたμmサイズの構造解析が常温で行えるようになってきた。

今回、研究グループは、立体構造が未知である場合において、原子の異常分散効果のみを用いて構造解析する「単波長異常分散法(Single-wavelength Anomalous Diffraction、以下、SAD法)」により、2種類のタンパク質の微結晶から構造決定を行った。

SAD法では一般的にメチオニンというアミノ酸を、解析の目印としてセレンを含むセレノメチオニンに置き換えたタンパク質結晶を用いる。SACLAは、セレン原子の異常分散効果を利用したSAD法に必須の約13keV(キロ電子ボルト)という高いエネルギーのX線を、安定的に発生できるように設計されている。

今回はSACLAのこの特徴を用いて、セレンがどの位置にあるかを確認できた。そのため、最少でわずか1万3,000枚のX線回折イメージから構造解析可能なデータセットを取得できた。今後SACLAを使うことで、新規タンパク質微結晶の迅速なX線結晶構造解析が可能であることを示唆する結果だと説明する。

研究グループによると、今回実証した手法は多くのタンパク質に適用できる非常に汎用性が高い方法だという。また、生命の維持に関わり創薬のターゲットになっているにもかかわらず大きな結晶を作成することが困難な膜タンパク質にも適用できると説明する。