ナノ構造で記録密度の限界を突破

あらゆるモノがネットにつながる。世界のデジタルデータ量は2020年、40兆ギガバイト(40ゼタバイト)に達するとの予測がある。

いま記録媒体として、高速の半導体チップ(フラッシュメモリなど)が脚光を浴びているが、主流は比較的低コストかつ大容量デバイスを実現できる磁性体である。その理由のひとつに、磁石はN・S極を反転させるのに必要なエネルギが高く、状態保持の安定性が高いことが挙げられる。長期保存されることも多い、情報量が爆発的に増える時代に合わせて、消費電力が少なく記録容量の大きい小型デバイスを実現していかねばならないが、磁気記録の高密度化が進むと、単一ビット(1/8バイト)あたりの磁性体原子の数が減少し、上記反転エネルギが低下、安定な記録ができなくなる問題――大きな壁が未来に立ちはだかっている。が、光明もみえている。

反転エネルギと関連している磁気異方向性エネルギ(MAE)を増大させられれば、ナノ磁性体の記録の安定性向上につながる。そのためにはMAEの現象を原子レベルで理解することが必要だという。東北大学多元物質科学研究所のプニート・ミシュラ研究員、岡博文研究員、米田忠弘教授、三重大学工学研究科の中村浩次准教授らの研究チームは、ナノ磁性材料に関する最も重要な特性であるMAEをナノ構造と同時に可視化し測定することに成功した。

測定には原子レベルで磁気特性を測定可能なスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)の手法を利用――。観察対象として金属基板に成長させた強磁性薄膜であるコバルト2層膜のナノサイズの島が用いられた。

磁性薄膜の島々は、オセロの盤面に白駒と黒駒があるように、それぞれN極・S極のいずれかが表を向いていて、ここに外部から磁場を浴びせる(印加)すると、当初磁場と反対を向いていた島も、ある強さの外部磁場の印加によって、それと同じ方向に反転する。

この外部磁場の強度から、MAEの測定が可能であり、ともに非磁性金属である銅と金を基板とした場合、銅と比較して金の基板に成長させたコバルト島には 約2倍のMAEが観察された。

理論計算との比較により、金の大きなスピン軌道相互作用の影響によって、コバルトに大きなMAEが観察されたことが理解された。同様の測定によって、基板に影響された薄膜磁性体の結晶性や、基板からの電子・スピン状態への影響が、MAEの決定に大きく関与していることを、世界に先駆けて解明したという。

高密度磁気記録の実現や、ナノ材料を用いたスピントロニクスデバイスの構築に貢献すると考えられる。今回の研究成果は、米国化学会誌「Nano Letters」(電子版)に掲載された。