正・負極内のリチウム組成変化を電池の動作下で同時に測定

京都大学は、大型放射光施設「SPring-8」の高輝度・高エネルギーの放射光X線を用いて、動作下にある市販のリチウムイオン二次電池からリチウムイオン濃度分布を測定し、正・負極内のリチウム組成変化を同時に明らかにしたと発表した。

内本喜晴 人間・環境学研究科教授、鈴木宏輔 群馬大学助教、櫻井浩 同教授らの研究グループが成功。研究成果は、国際結晶学連合発行の専門誌「Journal of Synchrotron Radiation」(2017年9月号)に掲載される。

研究グループは、SPring-8のビームラインBL08Wにて高輝度・高エネルギーX線を用いたコンプトン散乱(X線光子と電子の衝突後、光子は電子によって散乱され、電子も弾き飛ばされる散乱現象)法により、市販のリチウムイオン二次電池(VL2020)を充放電させながら、コンプトン散乱X線スペクトルを測定した。

そこで得られたコンプトン散乱X線スペクトルに、以前研究グループが開発したSパラメータ解析法(コンプトン散乱X線スペクトルのラインシェイプの変化を数値化したパラメータを用いる解析手法)を適用することで、リチウムイオン濃度分布を得た。

その結果、充電時にセパレータと負極との界面付近にリチウムイオンの偏析を示唆するリチウムイオン濃度の高い領域が存在することを観測。さらに、リチウムイオン濃度についての検量線を用いて、動作下におけるバナジウム酸化物正極とリチウムアルミ合金負極のリチウム組成の変化を同時に明らかにすることに成功した。

研究グループは、検証法の特徴について「高い物質透過能を有する高エネルギーX線を用いた分析手法であるため、非破壊で元素を定量することが可能である」ことと「リチウムイオン濃度分布を構成する画像のそれぞれの画素がコンプトン散乱X線スペクトルからできているため、リチウムイオンの定量情報を持つ」ことだと説明する。

リチウムイオン二次電池の特性向上に関する問題として、電極内における反応分布がある。一般的に用いられる合剤電極における反応は、電解液のイオン伝導度や粘度、電極の構成などの内的要因と、電池自体の構造や温度といった外的要因によって大きく影響を受ける。

また、電気自動車等に用いられる大型のリチウムイオン二次電池は、電極内におけるこの反応分布が複雑化し、電池性能に悪影響を及ぼすという大型電池特有の問題も懸念されている。この問題を解決するためには、電極内のリチウムイオン濃度を、その反応下で定量する手法の開発が重要となるという。