iPS細胞、ついに難病治療薬にも

私事だが、当編集部員の知り合いには難病指定を受けた人が多い。うちひとりは元気だが、後縦靱帯骨化症(OPLL)という病で医師に運動を止められている。「iPS細胞の研究がもっと進めば、きっと治るよ」と励ましても、「どうだか......」と苦笑している。

もし転んで圧力を受けたら首の靱帯が骨になる、と聞かされたときにはそんなことがあるのかとかなり驚いた。が、本来骨になる場所でないところが骨化する病は少なくない。遺伝的背景の役割が大きいとわかっているOPLLのほかにも、突然変異による患者の多い進行性骨化性線維異形成症(FOP)がある。

骨系統疾患と呼ばれる全身の骨や軟骨の病気の1つであるFOPは、子供の頃から全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが徐々に硬くなって骨に変わり、このため手足の関節の動く範囲が狭くなったり、背中が変形したりする希少難病である。外国では人口200万人に1人の患者がいると言われ、日本の患者数は不明だが、研究班の調査から60~84名と推計されている(引用、難病情報センター)。

これまでの研究により、この病気は骨形成を司る増殖因子であるBMPの受容体の1つであるACVR1遺伝子に突然変異が生じて変異型ACVR1へと変化することが原因だとわかっているという。京都大学 iPS細胞研究所 日野恭介研究員(CiRA増殖分化機構研究部門、大日本住友製薬株式会社)、戸口田淳也教授(CiRA増殖分化機構研究部門)、池谷真准教授(CiRA未来生命科学開拓部門)らの研究グループは、過去にその作成に成功しているFOP患者由来のiPS細胞(FOP-iPS細胞)を使い、FOPの異所性骨形成のメカニズムを解明し、治療薬候補を見出した。

再生医療と創薬への応用が期待されながら、前者に係るニュースばかりが目立つiPS細胞――を活用した、新薬開発における新たな里程標となる。

研究を行ったグループは、すでに異所性骨形成モデルの作製にも成功していて、今回、FOP-iPS細胞を用いて化合物を探索するハイスループットスクリーニングシステムを構築し、アクチビンAによって引き起こされるシグナルがどのように伝達されているのか調べるとともに、薬剤候補の探索およびその物質の絞り込みを試みた。結果、移植臓器の拒絶を予防するラパマイシンを投与することで、骨化を抑えられた。そして、アクチビンAによってFOP患者のACVR1が活性化され、ENPP2(分泌タンパク)を介してmTOR(タンパク質キナーゼ)シグナルを活性化し、異所性骨を作らせる分子メカニズムがわかったという。

研究成果は米国東部時間の昨夕、「The Journal of Clinical Investigation」にて公開された。