19世紀来の謎解きに終止符

シャンプーや化粧品、キッチン用品、コンタクトレンズから、低燃費エコタイヤやLED電球、太陽電池モジュール等にまで使用されているシリコーンなどの有機ケイ素材料は、優れた耐熱性や耐寒性、耐光性、電気絶縁性、離型性、撥水性をもち、製品の長期安定性に貢献している。

その要求水準は年々高まっていて、より高機能、高性能な有機ケイ素材料の開発が望まれている。そしてこれを達成するために、無機ケイ素化合物(ガラス、シリカ、ゼオライト等)や有機ケイ素化合物(シリコーン等)の基本単位であるオルトケイ酸(Si(OH)4)の分子構造の解明、安定的な合成と単離が求められてきた。だがその詳細な分子構造は19世紀から今日まで、解明されてこなかった。

オルトケイ酸はアルコキシシランや塩化ケイ素を加水分解することでその発生が観測されてきたが、速やかに重縮合し、最終的にはシリカ(SiO2)になってしまうことから単離された例は皆無だったという。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、総合科学研究機構の5者は、世界で初めて、ガラスやシリコーンの基本構造を解明。それらの基本単位構造であるオルトケイ酸結晶の作製に成功した。

有機ケイ素材料の物性がその骨格を形成しているシロキサン結合の構造に依存することに着目し、シリコーン創成期の100年以上前から現在まで行われてきた加水分解法において、鍵となる「真の前駆体」シラノール――オルトケイ酸を単離できない。理由は水であると考え、水を用いずにオルトケイ酸を合成する反応の開発を検討。パラジウムカーボン触媒を用いアミド溶媒中にて4つベンジルオキシ基を有するケイ素化合物を水素化分解する手法を開発することで、オルトケイ酸を収率良く(96%)合成することができた。

結晶化促進のためにテトラブチルアンモニウム塩を反応溶液に加えることにより得られた単結晶、そのX線結晶構造解析の結果、オルトケイ酸の構造は正四面体構造であり、Si-Oの平均結合長は0.16222ナノメートルであり、O-Si-Oの平均結合角は109.76ºであった。また、J-PARCセンターと総合科学研究機構が担当した中性子結晶構造解析の結果、O-Hの平均結合長は0.0948nmであることも明らかになった。

オルトケイ酸の縮合過程において生成すると考えられているオリゴマー(2量体、環状3量体、環状4量体)についても、同様の反応により合成に成功し、X線結晶構造解析によってそれらの構造を明らかにした。

オルトケイ酸とそのオリゴマーを安定的に合成できるようになったことから、これらを構成要素として用いた高機能・高性能シリコーン材料の開発や革新的なシリカ製造プロセスの開発が期待される。研究成果は、英学術誌「Nature Communications」に掲載された