高次染色体構造の解体スイッチが明らかに

細胞分裂の際に染色体構造を生じる、ヒトを含む多くの真核生物は、両親から受け継いだ2組の遺伝子情報を持っている。

同情報を次世代に伝えるには「配偶子」という特殊な細胞(ヒトでは精子と卵)を形成し、その中に親細胞のきっかり1/2だけ遺伝情報を分配する必要がある。

両親の遺伝情報は互いの遺伝情報を交換することで激しく撹拌される。そして生物の多様性は劇的に増大する。目的を果たすために、上記分配に用いられる特殊な周期――減数分裂期の染色体は、「遺伝子攪拌装置」とでも呼ぶべき非常に複雑な高次構造を形成する。この構造体は、一度攪拌が終了した時点で直ちに解消しなければ、次に起こるべき染色体分配に支障をきたしてしまう。減数分裂の進行において、タイミングよくこの染色体高次構造を解消し、次のステップに進める仕組みは謎に包まれていたという。

大学共同利用機関法人自然科学研究機構 基礎生物学研究所、東京工業大学、サセックス大学、ニューヨーク州立大学のメンバーからなる共同研究グループは、真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いた研究により、細胞分裂の進行を制御する分子群が、減数分裂期の高次染色体構造(シナプトネマ複合体)の解体を直接指揮するスイッチ役として働くことを明らかにした。

シナプトネマ複合体の解離と細胞周期を結びつける信号網(シグナリングネットワーク)を特定し、その制御機構の解析を行った。結果、タンパクキナーゼが同複合体の解離調節の鍵となっている――。細胞周期の制御において中心になるDbf4依存性Cdc7キナーゼの調節因子Dbf4のリン酸化、これが同複合体構成タンパク質の分解を引き起こすことで、染色体からの解離を誘導するスイッチになっていることを発見。また、減数第一分裂前期中、遺伝情報の交換を促進するために体細胞分裂期型の組換え経路が抑制されているが、細胞が減数第一分裂前期から出ると、体細胞分裂期型組換えが直ちに再活性化することも見いだした。

このような染色体のダイナミックな動態はヒトを含む高等真核生物でも保存されていることから、同様のシグナリングネットワークが減数分裂から体細胞分裂への染色体構造変換に関与しているのか、今後興味が持たれるところだという。

文部科学省科学研究費助成事業、英国Biotechnology and Biological Sciences Research Council、Medical Research Councilなどの支援のもとで行われた、この研究の成果は、欧州分子生物学機構の公式誌「The EMBO Journal」(電子版)に掲載された。