超伝導現象、最大のなぞ解明へ

ある種の物質を-240℃まで冷却すると電気抵抗が完全にゼロになる。現象が液体窒素温度(−195.8 °C、77 K)を越えても現れる、電力網やリニアモーターカーにも使える夢のようなものができたと、銅酸化物である高温超伝導体の紹介番組に釘付けになった記憶が当編集部員にはある。

1986年に発見されたLaBaCuO系、そして翌年90Kで常伝導から超伝導へ転移するY系(YBaCuO)が発見され、その後も転移温度が更新され続けている。銅酸化物における高温超伝導現象の解明は、現代物理学において最重要課題の一つであり、多くの科学者が研究に取り組んでいる。

それには転移前の金属状態の性質を理解することが不可欠であり、銅酸化物高温超伝導体では、超伝導を示すよりも高温で、一部の特定方向の電子が消失する特異な金属状態――擬ギャップ状態が研究初期から観測されていた。

しかし変化のメカニズムや高温超伝導との関係は四半世紀に渡り謎のままだったという。

京都大学理学研究科修士課程 佐藤雄貴氏、笠原成 助教、松田祐司 教授らの研究グループは、東京大学、九州産業大学、韓国科学技術院、ドイツ・マックスプランク研究所と共同で、Y系超伝導体の擬ギャップ状態を解析。その結果、電子が集団的な自己組織化によって配列し、ある種の液晶状態が作られていることを発見した。

磁気トルク測定という超高感度磁気測定を用いることで従来にない高い精度で調べた、擬ギャップ状態では物質の磁気的性質が x 方向(0°方向)と y 方向(90°方向)で異なり、電子集団が自発的に配列することで空間的な非対称性(電子ネマティック相)をもった新しいタイプの秩序状態へと急激に変化している――相転移現象が明らかにされた。

高温超伝導の発現機構の理解に重要な指針を与えるものと期待される。研究成果は、英国の学術誌「Nature Physics」に掲載された。