粗性モデリングによりスロー地震を解析

トラフとは海底の盆地である。比較的浅い海溝をさし、日向灘から遠州灘に連なる5つの海盆を総称して南海トラフという。ここに昭和東南海地震、昭和南海地震が発生以来70年が経過していて、今後30年以内に70%の確率でマグニチュード8~9の巨大地震が起きるだろうと指摘されている。

南海トラフは、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが年間数cmずつ沈み込んでいる場所(参考、「地震調査研究推進本部」資料)であり、その西端、豊後水道下では昭和南海地震(M8)のほかにも1968年に日向灘地震(M7.5)が発生した。

通常の地震頻度が高くない深さ20~40 kmのプレート境界面では、ゆっくりとすべるスロー地震の一種――約5~7年に一度、間欠的に発生するL-SSE(長期的スロースリップイベント)が観測されている。一方L-SSE領域より深部では、間隔・継続期間ともにL-SSEよりも短い「深部低周波微動と短期的スロースリップイベント(ETS)」が起きている。

豊後水道周辺で発生した3つのL-SSE(1997年、2003年、2010年)は、すでにすべり分布が解析されていて、3回ともほぼ同じ中心から外側への緩やかに変化する分布が推定されている。すべり域は、深部低周波微動や地震発生帯まで連続的に広がっているやに見えた。従来の手法では、すべり分布の滑らかさを前提にし、地殻変動観測データの不十分さを補って解析。すべり域内部が真に滑らかな分布をしているかは不明だったという。

海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センターの中田令子特任技術研究員、堀高峰グループリーダー、地球内部物質循環研究分野の桑谷立研究員らは、近年医学や天文学など様々な分野に適用され成果を挙げているデータ解析手法――スパース(粗性)モデリングを使って、豊後水道におけるL-SSEを解析した。結果、L-SSE域の上限および内部にすべり量の急変(例、0.2mが0に)を見出すとともに、従来手法よりもすべり域内部の構造を詳細に推定することができた。また、急変位置は、地震発生帯の下限および深部低周波微動の上限とよく一致することを示した、と発表した。

文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成」の公募研究課題「スパースモデリングによる地震発生予測のための地殻活動データからの情報抽出」として、地球科学と情報科学の異分野間の学融合共同研究によってなされ、普遍的なデータ解析の方法論を探求するデータ駆動科学がもたらした画期的な成果といえる。

今後、紀伊水道や東海地方の地殻変動観測データにも同手法を適用し、南海トラフ全域の地震発生サイクルシミュレーションを高度化するなど、地震・スロー地震の発生メカニズムの解明への寄与が期待される。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に掲載される。