慶應義塾大学、レーザー照射によるシリコンマイクロピラーの形成に成功
慶應義塾大学理工学部機械工学科の閻 紀旺(やん じわん)教授の研究グループが成功。研究成果の一部は、2017年7月8日に国際生産工学アカデミー(CIRP)の機関誌「CIRP Annals- Manufacturing Technology」のオンライン版で公開された。
リチウムイオン電池分野において、従来の炭素負極の約10倍の理論容量を持つシリコン負極の研究が盛んだ。しかし、シリコン負極はリチウムイオンを吸蔵すると3倍以上の体積膨張が発生するため、充放電を繰り返すと膨張収縮によって電極の割れや集電体からの脱離が起こるという課題があった。
また、半導体デバイスや太陽電池の生産において単結晶シリコンインゴット(単結晶あるいは多結晶シリコンで作られた円柱状またはブロック状の塊)をシリコンウエハへ切断する段階で、大量のシリコン粉末が発生。単結晶シリコンインゴットの約半分程度のシリコン粉末は産業廃棄物として処理されるというコストの問題もあった。
今回発表した研究は、廃シリコン粉末を再利用しリチウムイオン電池負極を製造することを目的として行われた。
研究グループでは、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリイミドを加えた廃シリコン粉末を集電体としての銅箔上に塗布し、それに対してレーザー照射を実施。様々な条件でレーザー照射実験を行った結果、異なる形状や大きさ、傾斜角度を有するシリコンマイクロピラーの形成に成功した。
シリコンマイクロピラーの周りには十分な空間が存在するため、充電時のシリコンの体積膨脹を完全に緩和・吸収できる。そのため、電極の破壊を防止することが可能であり、シリコン負極のリチウムイオン電池の飛躍的な長寿命化が期待できると考察している。
また、ピラーの形状や大きさ、傾斜角度および分布密度などを制御することでシリコンの体積膨脹を完全に緩和できるため、高容量、長寿命かつ低コストのリチウムイオン電池負極を作るための新しい製造プロセスの可能性を示すものとして期待される。