京都大学、遺伝性疾患の治療に役立つ研究成果を発表

国立大学法人京都大学(以下、京都大学)は2017年7月13日、独自に開発した化合物をミトコンドリア内のDNAに結合させることで、神経・筋肉疾患に関わる遺伝子を抑制することに成功したと発表した。将来的にはミトコンドリアDNAを標的とした新たな疾病治療法の開発を目指す。

ガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)助教、杉山弘 理学研究科教授、日高拓也 同修士課程学生らの研究グループが成功。研究成果は2017年6月、米国の科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版で公開されている。

DNAは「転写因子」と呼ばれるタンパク質がその配列に結合して情報を読み取り、書き写すことで、遺伝子発現(DNAの持つ情報を元に実際の生体現象を生み出す作用)を起こす。研究グループは、DNAの配列を読み、配列選択的にDNAに結合することができる化合物「ピロールイミダゾールポリアミド(PIP)」の研究に取り組んできた。PIPは、生体細胞内の特定のDNA配列に結合することで、転写因子がDNA鎖の特定の部分と結合するのを防ぐ働きを持つ。これにより、DNA情報の転写を抑制、疾患の要因となる遺伝子の発現を抑制すると説明する。

DNAの大半が核の中にあるが、ミトコンドリア内にも少量のDNAが存在する。PIPは、核膜を通過して核内のDNAと結びつく能力を持っているが、ミトコンドリア膜を通過することはできない。研究グループは、ミトコンドリアのエネルギー障壁を乗り越える力を持つ「ミトコンドリア透過性ペプチド(MPP)」によってPIPを補完することで、PIPがミトコンドリア膜を通過するように改変することに成功したという。

MPPを結合したPIPは「MITO-PIP」と呼ばれ、ミトコンドリア転写因子A「TFAM」のDNAへの結合をブロックするよう設計されたもの。TFAMは「ND6」と呼ばれる遺伝子を含む様々なミトコンドリア遺伝子の転写に大きく関与している。研究グループはTFAMを阻害するMITO-PIPが標的配列に高い親和性を示すことを発見し、与えるMITO-PIPの濃度の違いによってND6遺伝子の発現を60%から90%まで低下させた。また、蛍光を発する分子を標識としてMITO-PIPに付け、特殊な顕微鏡を使って、MITO-PIPが細胞の核内ではなくミトコンドリア内部に集まることを確認した。

同研究グループでは、今回の研究をさらに発展させ、将来的にはミトコンドリアDNAを標的とした新たな疾病治療法が開発できるよう研究を続けていきたいとコメントしている。