遺伝子の機能解析に有用な技術を確立、京都大学が発表

国立大学法人京都大学は2017年7月10日、金の微粒子を用いて細胞内に遺伝子を運び込み、数秒の光刺激で狙った細胞に好きなタイミングで遺伝子発現を誘導する方法を開発したことを発表した。

研究グループは、見学美根子 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授、村上達也 同准教授(現・富山県立大学教授)、川端ケリー 生命科学研究科博士課程学生、中辻博貴 大阪大学特任研究員ら。同グループによると、今回の研究成果は組織や生体における遺伝子の機能解析に有用な技術であり、将来的には遺伝子治療への応用が期待されると説明する。研究成果は、2017年7月5日に英国の科学誌「Scientific Reports」で公開されている。

遺伝子発現とは、遺伝子が持つ情報に基づいてタンパク質分子が合成されることを指す。遺伝子発現を操作することは生命現象の分子メカニズムを理解するために重要で、複雑に構成された生体組織の中で、任意の細胞に任意のタイミングで特定の遺伝子発現を誘導する技術が求められている。

遺伝子発現を誘導する一つの方法として、生体が熱ストレスに反応する機構を利用することが以前から確立されていたが、適切な温度で安定的な熱刺激を与えることが困難だった。この問題を解消するため、今回の研究グループは、金ナノロッドという約50nm(1nmは1mmの100万分の1)のナノ粒子を採用。光を吸収して熱を発生させることや生体適合性が高いという特徴がある。

金ナノロッドを用いることで、わずか数秒のレーザー光照射によって1細胞単位で任意の細胞だけに、任意のタイミングで目的の遺伝子発現を誘導できたと説明する。また、応用的な試みとして、がん細胞と結びつくことでそのがん細胞を殺す機能を持つタンパク質「TRAIL分子」を光照射による熱刺激で発現させ、周囲のヒトがん細胞が細胞死する現象も確認したという。