海流のなかの島々でこその実用化

アーネスト・ヘミングウェイの没後、メアリーが夫の遺稿を整理して上梓した。「海流のなかの島々」の舞台はカリブ海である。酒と自然をこよなく愛した彼は海上に林立する風車を見て、どんな描写をするだろうか。フルーズンダイキリを飲みながら再生可能エネルギーに賛意を示しても、その風景を気に入らないように思える。

日本において、いま再生可能エネルギーといえば、太陽光発電が主流だ。火山列島であるため、地熱発電も有望視されている。がこれは国定公園など、自然を守る取り組みとの兼ね合いが難しい。国土面積は世界ランキングで第61位――。狭い土地だけではなく、EEZ(排他的経済水域)世界第6位の海に目を向ける必要がある。自然と景観保護の努力とともに。

太陽光発電、風力発電はともに、クリーンエネルギーを生み出すが自然現象に弱い。時間帯と天候によって発電量が不安定になる。

そのため、海洋のさまざまなエネルギー(海流、潮流、波力、海洋温度差等)による発電技術は、新たな再生可能エネルギーとして世界的に期待されている。特に日本の沿岸付近には、世界的に有数のエネルギーを持つ黒潮などが年間を通じて安定的に流れている。海流は、離島や、電力系統連系等の制約により再生可能エネルギーの導入が困難な地域などにおけるエネルギー源として、大きな可能性を有しているという。

株式会社IHIと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、海流エネルギーによって発電する、新たな再生可能エネルギー技術である水中浮遊式海流発電システムの100kW級実証機「かいりゅう」を、IHI横浜事業所で完成させた。今夏、鹿児島県十島村口之島沖の黒潮海域で、実際に100kW規模の海流発電――世界初となる実証試験を行うと発表した。

海底に設置したシンカー(錘)から浮体式発電装置を海中に係留し、海流でタービン水車を回転させて発電する。仕組みは、昼夜や季節による変動の少ない海流エネルギーを長期かつ連続的に利用することにより、年間60%以上の高い設備利用率での発電が可能であり、1000m級の大水深域での設置にも対応する。波浪の影響なしに安定運用ができ、船舶の航行に支障を及ぼさず、設置海域を広く設定することができる。 左右2基の水中タービンを互いに逆回転させることでトルクを相殺でき、海中で安定した姿勢を保持し高効率を実現する。保守整備時には海上へ浮上させて、メンテナンスや修理を容易に行える。

「かいりゅう」は、十島村の小中学生から募集した愛称の中から村長が選定したという。IHIは、今回の実証試験により発電性能や姿勢制御システムを検証し、海流エネルギーを有効かつ経済的に利用する水中浮遊式海流発電システムを2020年に実用化することを目指す。

EEZ面積世界第3位のインドネシア、4位のニュージーランド、その他成長著しいアジアの国々、カリブの島々にも受け入れられそうだ。