"きれい"をつくるナノ粒子を解明!

10億分の1メートル。決して肉眼で見られない大きさの粒子がさまざまなものをきれいにする。トイレの脱臭をし、洗濯物の汚れを落とし、食品や化粧品の抗酸化成分になり人に作用する。外壁に塗布されれば、建物の輝きを年中守る。

触媒としてモノをきれいにするのではなく、インク状にされて電子基板の配線に使われたり、自らが光り輝く材料になることもある。ナノ粒子は、その原材料になる金属が幾種類もあり、同じ金属であっても用途によってそれぞれ製法が異なる。

いま最も使われているナノ粒子の原料は酸化チタン――汚れの分解、消臭、殺菌、抗菌、そして水から酸素や水素を生成するなどの効果を持つ、光触媒として幅広い領域で利用されている。酸化チタンの結晶は、光を吸収した時、内部に高エネルギー状態の電子と、その電子が抜けた「正孔」を生む。正孔は表面に付着した匂いや汚れ、細菌などの物質の構成分子を分解する酸化反応に利用される。一方、電子は触媒表面にて酸素の還元反応に使われ、活性酸素を生成する。

地球上に多く存在する酸化チタンは、上記光触媒効果の発見以来、急速に需要が増えてきた。近年その効率をいっそう高めるために、太陽光の波長に合わせた物質構造の改良や、エネルギーの受け渡しをスムーズにするための物質添加など、様々な研究が盛んになっている。けれども、触媒効果を発揮する電子や正孔は物質の結晶構造のどこから発生するのか、電子がどのくらいの時間で表面へ移動するのかなど、原子レベルの詳細な動きはすべてが明らかにされていなかったという。

東京農工大学大学院工学研究院の三沢和彦教授、京都大学大学院理学研究科の鈴木俊法教授、理化学研究所放射光科学総合研究センターの矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターの片山哲夫研究員らの共同研究グループは、ガラスやテントの汚れ防止、殺菌などに用いられるアナタース型酸化チタンナノ粒子に光を照射した直後の超高速な電子状態の変化を、X線自由電子レーザー施設SACLAを用いて観測に成功。10兆分の1秒(100フェムトセカンド)程度で起こる変化を観測したことで、これまで未知だった光触媒反応の初期過程を明らかにした。

紫外光とX線レーザーパルスの間隔に生じるゆらぎを正確に評価する手法を組み合わせ、時間分解計測の精度を大幅に向上させた今回の実験では、X線吸収スペクトルの時間変化を見たとき、光反応の開始点で瞬間的にスペクトルが変化している様子が捉えられた。それを各X線の波長でさらに細かい時間で測定。紫外線照射の直後に、低エネルギー状態にある電子が光を吸収して、雲のように広がったより高いエネルギー状態になり、約90fs以内にその雲が縮んで、高エネルギー状態のままチタン原子に捕らわれることが分かったという。

研究成果は、米国物理学協会の論文誌『Structural Dynamics』に掲載された。