果樹の品種改良では近年、細胞内染色体の重要成分であるデオキシリボ核酸(DNA)の違いから特性の予測と個体選びをする、「DNAマーカー選抜」の利用が進んでいる。
しかしDNAマーカー選抜は、少数の遺伝子が関わる特性に限られていて、果実重など重要な特性の多くを占める、多数の遺伝子が少しずつ関わる特性には利用できなかったという。
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、東京大学および情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所は共同で、大量のDNAマーカー情報から特性を予測する新技術により、芽生え段階で果実重、果実の硬さ、果皮の色、果皮のむきやすさ、果肉の色、じょうのう膜(房の袋部分)のやわらかさといった果実の特性を高い精度で予測することに成功した。
新技術の名は「ゲノミックセレクション」。家畜育種の分野を中心に新たな手法として注目され、実用化が進んでいる。この手法では、既存の品種や系統、従来の育種における交配で得られた個体などを用いて、これらの品種等の間における果実重などの特性の違いと大量のDNA配列の違いとの関係を数式で表した予測モデルを作成。同モデルを新たに養成した個体に適用しDNA配列から特性を予測して、所望の特性を持つ個体を選抜する。
今回、787個体で17の果実特性およびゲノム全体を網羅する1,841個のDNA配列情報を用いてモデルを作成したという。ゲノミックセレクションでは、多数の遺伝子が関わる特性についても芽生え段階で選抜できることが明らかになった。この技術の活用により、新たなニーズ(たとえば特徴的な香りを持つカンキツなど)に応える、カンキツの品種改良の加速化・効率化が期待される。研究成果は国際科学雑誌「Scientific Reports」(7月5日付け)に掲載される。