CMOSセンサで単一細胞を可視化

人の体はミネラルと細胞でできている。 人のみならずすべての生物が細胞でできている。ゆえに再生医療や創薬の分野において、世界で30年以上胚性幹(ES)細胞が研究され、山中教授らによるiPS細胞の樹立以来、いっそう細胞生物学の発展が期待されている。

生物体の設計図であるゲノム(遺伝子を含む染色体の一組)、これによって細胞分裂を繰り返しながらDNA(デオキシリボ核酸)塩基配列をそのままに、皮膚の細胞は皮膚になり、心筋は心筋に、角膜の細胞は角膜になる。仕組みをリセット。細胞の初期化に成功したのが人工多能性幹細胞(iPS:induced Pluripotent Stem cell)だ。

素晴らしく、大いに待望される、画期的な研究成果の発表を続ける細胞生物学だが、その研究者たちがふだん行っていることは、われわれ凡人も理科の実験でしていた観察である。細胞と、その分裂過程を客観的に見ることがとても重要なのだ。
ただ、環境も、そこで用いる装置も、理科の実験とはレベルが違うのみ――と、少年少女たちに思って欲しい。

観察には従来、対物レンズを使用した蛍光顕微鏡が用いられていた。
それはレンズやフィルタなどの光学系部品が大型で、通常のインキュベータ(細胞培養装置)内で用いるのに適していない。観察のたびに培養装置から蛍光顕微鏡に細胞サンプルを運ぶ操作は、不純物混入の要因となっている。ために、細胞集団の蛍光像を培養装置の中で、より簡単に取得できる新技術の開発が望まれていたという。株式会社東芝は、インキュベータ内で培養する細胞集団の蛍光像を、対物レンズなしで可視化するイメージング装置を開発した。

レンズではなくイメージセンサを用いて細胞を観察する手法に着目し、CMOSセンサの上に特定波長の光を除去するフィルタを形成することで、蛍光像を可視化した。今回の開発品は、細胞集団の中から単一の細胞を個別に判別することが可能で、従来比1/3の空間分解能10μm未満を世界で初めて達成――。従来の類似技術で一般的な大きさの細胞判別に必要だった、画像処理による高解像度化を行う計算機を用いず、観察対象となる細胞の核を蛍光染色した細胞集団の蛍光像を、インキュベータ内の蛍光イメージング装置で取得することに成功した。

センサモジュール上で細胞培養を行うことで、任意のタイミングで蛍光の画像を取得・送信し、いつでも遠隔でインキュベータ内の細胞の様子を簡単に観察することができる。そのうえ、小型化によって携帯性に優れた装置となるため、屋外での活用も見込まれるという。
開発技術の一部には、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)により得られた成果を含む。また、実証実験の一部は、武田薬品工業株式会社の協力のもとで実施された。開発品は、台湾で開催の国際会議「Transducers 2017」にて明日発表される。