3Dなのに、2D画像もきれい!

初めて観た3D映画はマイケル・ジャクソン主演の『キャプテンEO』。長い行列を堪えて入場し、上映途中、専用メガネを外してみると、周りには虚空を掴もうとする手がいっぱい揺れていたり、スクリーンはぼやけていたりと、なんとも間抜けだった。それがいまや簡単にテレビなどでも観られる。3D映画は酔う、と文句を付ける人がいる。

5年ほど前、家電量販店にて裸眼で3D映像が観られるテレビをみた。筆者は『キャプテンEO」での出来事を彷彿させられた。視角よって奥行きの部分、立体感の要所に虹色がちらついていて、技術的には3次元か2次元の択一だと思った。3D対応の2Dテレビを買っても、みなが専用メガネを掛けなければ楽しめない。邪魔くさいとの声に押されて、結局、ふつうの2次元受像機を選んだ。そしてきょう、邪魔くさがり屋や3Dに酔う人も、3Dメガネを掛けた人と一緒に、同じ映像を楽しめる時代が来ることを知った。

その時代の到来は、日本電信電話株式会社(NTT)による。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、裸眼で2D映像がクリアに、かつ3Dメガネで立体映像が見えるステレオ映像の生成技術を開発したのだ。
従来法とほとんど区別できない3D画像として人間に知覚される。今回開発の映像生成は、左右の網膜像の視差においてそれぞれ位相をずらした2枚の画を合成して行われる。人が奥行きを知覚する際に働く視覚メカニズムの科学的知見を応用していて、イメージキャンセレーション法につきものの画像劣化がなく、元画像のコントラスト圧縮が不要で、特別な装置を用いずに2次元表示との互換性を持った3D表示を行う技術手法は世界初だという。

現在、3Dメガネで見たときに再現できる奥行き量(視差)に制限があり、大きな奥行きの再現時には、正しく表現できないほかに画質低下(ぎらつき)が生じる。画像変換アルゴリズムのハードウェア化や、画像圧縮技術への応用なども今後の検討課題とのことだが、パソコン画面を作業ごとに3Dメガネの有無にて最適な環境にしたり、美術館などでオリジナル2D作品とその3D改変版とを同時に展示したりできるので、利用価値はかなり高い。

今回の研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金新学術領域研究「多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出」の計画研究「信号変調に基づく視聴触覚の質感認識機構」 の支援を受けて行われたとのことだ。