ブロックチェーンを医療に生かすプロジェクト「製薬ブロックチェーン」
ただ、ブロックチェーンの技術そのものは、何も仮想通貨のためだけに開発されたものではない。
今でこそ仮想通貨の取引にしか使用されていないイメージはあるが、多くの用途において活躍が期待できる、次世代の情報共有技術である。
「製薬ブロックチェーン」プロジェクトは、そんなブロックチェーンの情報伝達のポテンシャルに注目し、医療業界におけるデータの共有に役立てようと日本で設立されたものだ。
医療とブロックチェーンの融合
今日、世界の様々な地域で医療が発達したことにより、優れた臨床試験が現在進行形で進んでいる。
今や多くの医療関係者が注目するのは、新型コロナウイルスに有効なワクチンの開発である。市場の流通に耐えうるようなワクチンの開発のためには、多くの臨床試験を行う必要がある。
現在はそれぞれの医療センターが別個に臨床試験に臨み、データを収集しながらワクチンの開発に動いている。
臨床試験で得られるデータの希少性は高く、まして新型コロナウイルスに関する臨床データは貴重で、多くの医療従事者が世界中で携わっていることから、共有の価値は高い。
しかしながら、1つの医療センターで得られたデータの二次利用に関する共有はいまひとつ進んでおらず、各国が個別にワクチン開発にあたっているような状況が続いている。
総力を結集すれば容易に開発ができたかもしれないワクチンも、別個の対応と試験を各国でとっているために、医療の進歩は遅れているのだ。
そこで今回取り組まれている製薬ブロックチェーンのプロジェクトは、匿名性を担保したまま臨床試験データを自由に共有し、医学の発展に生かそうというものである。
臨床試験データのグローバルな共有が難しい理由としては、1つに個人情報保護の観点が挙げられる。
臨床試験結果の匿名化は、現在のデータ共有においても行われているものの、そのプロセスは複雑で、実行には限度もある。
特に新型コロナウイルス患者のようなケースは、感染者の数が膨大とはいえ特定が容易な人数にとどまるため、匿名化を行うことは難しい。
被験者のデータ共有の同意が得られているとしても、国際的な共有となると、海外におけるデータ利用の用途を具体的に知ることは難しく、その都度同意を得ることも現実的ではない。
そこで活用したいのが、ブロックチェーンの技術である。
個人情報を保護しつつ、世界中でデータの共有の推進を目指す
今回のプロジェクトにおいては、まず臨床試験データのアクセス権をブロックチェーンで管理し、被験者の権限によってデータ利用の許可を判断することができる。
それに加え、データの利用をリクエストしている機関がどこであるかを把握し、データのやり取りがあったことを改ざんすることはできないため、信頼性の高い利用環境も実現する。
データの利用に関するあらゆる判断を被験者に委ね、それでいて個人情報の保護も徹底できるのは、ブロックチェーンでなければあり得ない運用方法である。
また、ブロックチェーンによって被験者の意思決定の有無を簡潔に伝えられるようになることで、医療機関の負担も軽減され、情報共有を迅速化することができる。
省力化だけでなく、作業の効率化にも繋がるのがこのプロジェクトの利点と言えるだろう。
また、被験者が容易に意思決定を行えるようになることで、臨床試験データの共有がより推進され、グローバル単位での医療の推進も期待できるようだ。
今回のプロジェクトはすでに米国において特許出願が行われている。
特許を取得し、同様のプラットフォームの乱立を防ぐことで、情報の一元管理を推進し、効率的な運用を目指すとともに、極端な営利目的による利用を防ぐことが狙いにある。
今後は臨床試験のみならず、通常診療における利用も進められる予定で、幅広いデータの活用が医療業界において進んでいくことにも期待ができそうだ。
製薬ブロックチェーンのプロジェクトは現在Kickstarterで出資を募っており、出資額に応じてお礼のメールや、説明会の受講、進捗報告が受けられる。
あくまで非営利での運用を目指すプロジェクトとなっている。