DX INITIATIVE 2019 モビリティ産業に見るデジタルトランスフォーメーション  プレス・ワークショップレポート

 モビリティ産業に見るデジタルトランスフォーメーションをテーマに、7月26日にプレス向けのワークショップが開催された。ディー・エヌ・エー常務執行役員中島宏氏とサイプレス自動車ビジネス担当楠本正善氏、WiTricity Corporationのエグゼクティブディレクター岡田朋之氏を講師に迎え、それぞれの取り組みやDX推進について解説が行われた。講演内容をお伝えする。

講演①ディー・エヌ・エー 常務執行役員オートモーティブ事業本部長  中島宏氏

「Beyond MassS 移動を基点としたまちづくりの未来」

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ディー・エヌ・エーは個人間カーシェア事業「Anyca」、次世代タクシー配車アプリ「MOV」、AIとIoTを活用した事故削減支援サービス「DRIVE CHART」、さらに日産自動車と共同開発を進めている無人運転車両を活用した新たな交通サービス「Easy Ride」など、さまざまなモビリティサービスに積極的に取り組んでいる。これらのモビリティサービスは収集された大量データをAIで徹底的に分析することで、さらに付加価値の高い新サービスを生み出す良循環を実現している。OMO (Online Merges Offline)の概念を踏襲させたものであり、OMOを理解することへの必然性を中島氏は強調する。

OMOの代表例にあるのが、中国アリババが運営するスーパーマーケット「フーマ」という。その理由について、中島氏は「中国ではオフラインの店舗があった方がいいという視点を持つ。アリババはオンラインとオフライン双方のタッチポイントから得られるデータを顧客体験につなげることができると考える。これが最適な顧客体験を提供するものになる」と説明した。

ディー・エヌ・エーが運営する各モビリティサービスの状況についても説明を行った。次世代タクシー配車アプリ「MOV(モブ)」は日本のタクシー会社がオペレーションしやすいサービス展開を実現し、これによって「すぐに来てくれる」「確実に出会える」という需要創出効果を生み出しているという。欧米におけるライドシェアアプリの普及率は50%にも上るが、日本は1%程度ほど。しかし、中島氏は日本市場におけるサービス拡大の可能性をこのように予想している。「今後、日本では普及率は伸びても20、30%ぐらいかもしれないが、普及していない99%をどのように改善するかが重要になってくる。現在利用されている1%のデータを分析することによって、体験の価値を飛躍的に高めることができる」。

また「Anyca」は発展期の状況にあるが、これまで3年間のサービス運営から「車を所有するのではなく、利用することに価値を見出した顧客体験」を得たという。今後、「0円マイカー」モデルを構築していく計画だ。次世代事故削減ソリューション「DRIVE CHART」については修繕費、賠償金の大幅な削減に繋がり、経済的効果を生むことが実証されつつある。ビックデータによるクラウド解析が可能になり、道路地物を認識することも可能だ。中島氏は「事業の広がりによって、町そのものが安全になっていくことに貢献できる」と述べた。

最後に中島氏はこのようにまとめた。「MaaSは複数の移動手段をデータでつなぐ"水平統合"だと考えられているが、より可能性が溢れているのは"垂直統合"だと考える。今後はMaaSを生活、街・社会とつなぐ"垂直統合"のBeyond MasSを目指し、モビリティを基点とした社会全体のOMO化を目指していきたい」。

講演②サイプレス セミコンダクタ自動車事業部ストラテジック マーケティング ディレクター 楠本正善氏

「カーエレクトロニクスの進化と未来を支える半導体技術」

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CASE時代が到来し、車両の電子化、電子部門の搭載率が拡大を続けている。乗るモノから利用するサービスへと産業自体が様変わりを始めているなか、モビリティサービスの実現には半導体などエレクトロニクスが不可欠。百年に一度の変革の時代を迎えているクルマにおいて半導体が担う役割とその技術について、市場トレンドとあわせて解説を行った。なお、当初登壇を予定していた同社自動車ビジネス担当シニアヴァイスプレジデントの布施武司氏に代わり、楠本氏による代理講演となった。

車載マーケットにおけるメガトレンドは今、電気化や自動運転化によって全ナビゲーションシステムのコネクティビティおよびインテリジェンス化を進行している状況にあると、楠本氏は説明した。同社調べによると、自動運転の進化によって、メガトレンドが半導体市場の成長をけん引している状況にもあることがわかった。こうした状況からカーエレクトロニクスから見た自動運転技術状況についても解説した。またコネクテッドカー台数は2022年までにCAGR27.7%まで成長し、1億万台に増加することを予測している。そして、楠本氏は「ビジネスの観点で見た時、メガトレンドが半導体市場の成長をけん引することを認識することが大事である」と強調した。

では、コネクティビティとコンピューティングの観点から今、何を取り組むべきか。楠本氏は「高拡張性のプラットフォームソリューションを通じて、共通プラットフォームでソフトウェア開発を行うことが必要になってくる」と指摘する。また拡張性の高いソリューションを通じて、車載マーケットでのリーダーシップの拡大を図り、リーディングポジションを確保しているという。サイプレスの高拡張性ソリューションとして、無線コネクティビティや有線コネクティビティの事例も紹介した。こうしたサイプレスのスケーラブルソリューションはカーエレクトロニクス市場の成長を今後もけん引し、2018年の市場機会は最大93米ドル、2023年の市場機会は最大184米ドルを予想している。

最後に楠本氏はこのようにまとめた。「車はどんどん繋がっていく。海外ではテレマティクスやエマージェンシーコールが当たり前になっている状況にある。繋がる際の最も大きな問題はセキュリティにあり、繋がるクルマはOTAが必須になる。あらゆるドライビングシーンを想定して、検証していく必要がある。全ての検証することは非現実的だが、OTAによる車のアップデートは必須だろう。先端の半導体技術を採用することで解決にも繋がる。我々にとってビジネスの機会が増えている」。

講演③WiTricity Corporation グローバルオートモーティブ&インフラストラクチャ事業開発エグゼクティブディレクター 岡田朋之氏

「ワイヤレス充電:EV普及と自動運転の未来に向けて」

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WiTricityは米ボストンにあるマサチューセッツ工科大学(以下MIT)のスタートアップ事業の1社であり、創業から12年が経つ。MaaS市場が爆発的な成長を遂げるなか、同社はシェアリングや自律運転などに象徴される未来のモビリティ社会に貢献していくことを事業目的とする。電気がけん引する未来の交通システムにおいて、同社が開発、サービス展開する無線充電は電気自動車の普及に重要な役割を果たすことが期待されている。従来のプラグイン型充電と同じくらい効率的かつ高速であることや、その利便性について説明を行った。

WiTricityの商用事例を動画で紹介し、BMWやヒュンダイなど大手自動車メーカーがワイヤレス充電を試験的に商用化していることが映し出された。岡田氏は「WiTricityにとって、競合は顧客がプラグインするケーブルのみ。従来のプラグイン型充電と比べてはるかに便利。近い将来の自律運転者にとって不可欠な存在になる。ワイヤレスになると、元に戻ることはできはずだ」と話す。なお、同社の強みはMITのエンジニアが開発した技術ライセンス。日本をはじめ、世界各国の自動車メーカーとの協力関係によって、理想的なエコシステムを築いていくという。

今後のビジョンを描くなかで、ワイヤレス充電の普及は中国、欧州、米市場がけん引していくことを予想する。岡田氏は「コンシューマー向けとパブリック向けの双方の利用でパワーレベルを向上させていく。自動化運転の世界ではワイヤレス充電化が加速していくことは明らか。自動車シェア社会が実現すれば、機能的な車が増えるだろう。太陽光によるワイヤレス充電は、人類にとっても目指すべきもの。日本の車メーカーも積極的に動いている」と話し、締めくくった。