水素の力で時速500キロ。「SPACETRAIN」

日本を代表する、世界でも稀な乗り物といえばやはり新幹線が挙げられる。鉄道の技術そのものの歴史は古く、欧米での機関車の発展が転じて電車にたどり着いたわけであるが、日本の新幹線の速度は通常の電車とは一線を画している。

必要エネルギーは通常の電車と同じく電気でありながら、最高時速は250キロを超える。この速度は一般的な電車の3倍のスピードで、これだけの速度で運行している例は世界でも稀であり、日本を訪れる海外からの観光客には新幹線目当てで来るという人も少なくない。

また現在はさらにその倍の500キロ近い速度で走行するリニアモーターカーの開発も進んでおり、今後数年のうちに実用化するとも言われているが、フランスで開発の進む「SPACETRAIN」は、電気ではなく水素の力で時速500キロを達成しようとしている新型のシャトルだ。

水素で動く最新の列車

新型の乗り物を開発する場合、現代においてまず懸念事項となるのがエネルギーの問題である。電力の供給を含め、今はあらゆる動力のリソースを石油や石炭などの化石資源に頼っている傾向が強い。

自動車のようにガソリンを直接燃料として活用しない電車なども、その電力を供給する発電所が石油などを使用している場合は、完全に環境負荷がゼロの交通手段であるとはいえないのである。

SPACETRAINはまずその点をクリアにするため、電気ではなく水素を燃料にして動くシャトルとなっている。一般的な電車と同じ線路の上を走ることはなく、一本の線路を伝うようにして走行するモノレール方式が採用されている。

水素の力で時速500キロ。「SPACETRAIN」

そして磁力の力を頼るリニアモーターを採用しており、エアークッションによって少し宙に浮いた状態でモノレールの上を走行する。このため通常の電車よりも摩擦が少なくなり、速度が出やすい上に内部への振動も少ないのである。

SPACETRAINのキャパシティは約250名ほどで、この人数が平均時速500キロで走行するための最大乗車数となる。時速500キロとなると、150キロの距離を約20分、東京~大阪間の距離を1時間ほどで走破してしまうスピードだ。

また、フランスのようにヨーロッパ大陸の間を走行する高速列車の存在は、非常に重要な役割を果たす、EU間の移動は国家をまたいでいても自由に行えるため、移動効率が良いほど彼らの国家間の行き来はより快適なものとなる。

広大な大陸を気軽に移動できる交通手段としても、SPACETRAINのような高速交通機関が非常に大きな意味を持つようになるのだ。

現在ヨーロッパにおいて高速鉄道とされているTGVと比較すると、SPACETRAINは非常に優れた性能を持つことがわかる。まず速度についてはTGVの平均速度が時速250キロであるのに対し、SPACETRAINは時速500キロと、倍の速度である。

従来の高速鉄道を凌駕する性能

また、事故のリスクについてもTGVは脱線事故のような鉄道としての事故リスクを抱えている一方、SPACETRAINはモノレール方式で線路をくわえこむようにして走行するため、電車のような脱線のリスクはない。建造コストもTGVが2500万ユーロであるのに対し、SPACETRAINは1000万ユーロと大きなコストダウンとなっている。

排出物による地球環境への影響も、SPACETRAINは水素を使用するためゼロとなっており、従来の電車を明らかに超える性能を有していることがわかる。

水素の力で時速500キロ。「SPACETRAIN」

優れた性能を発揮するSPACETRAINだが、現在はまだコンセプトの段階となっており、実際に走行実験がなんども行われているわけではない。このコンセプトを具現化し、商業利用を進めていくための実験設備設置のため、今はその資金調達を行なっている最中となっている。

2分の1のスケールでのモノレールとデモ機体を研究施設内に設置するため、350万ユーロの調達を現在は進めている。SPACETRAINのプロトタイプは2019年の6月、パリにて発表される予定で、それに合わせて実現への取り組みも進んでいくとみられる。

SPACETRAINはKickstarter上でも出資者を募っており、1万2千円以上の出資者にはこの機体に関する様々な情報が確認できるビデオプラットフォームの視聴権が与えられる予定だ。