ARとVRを活用したPTCのIoTソリューションが製造業の未来を変える

製造業におけるIoTの活用は急速なペースで進められている。製造業でのIoTの活用は製造工程の自動化やロボットを活用した無人化など様々な事例を挙げることができる。

アメリカ・マサチューセッツ州に本社を置くソフトウェア企業の「PTC」は、製造業におけるIoT化を支援している企業である。同社は企業向けにARやVR技術を用いたデジタルソリューションをいくつか提案している。以下ではPTCが提供しているIoTソリューションについて3つ解説していきたい。

PTCが開発したアプリケーションでは、製造業における製造工程を「漫画」で学ぶことができる。ただの漫画ではない。AR技術によって「立体的に動く漫画」である。

PTCが提供しているサービスのひとつに、製造工程における技術習熟を目的としたアプリ「Smart MFG」がある。このアプリでは、2Dのガイドブックをスマートフォンやタブレットで写すことによって立体的な製造工程を実際に目にすることができる。

これはPTCのアプリを実際に活用している動画だ。



見ていただくとわかる通り、ベルトコンベアが動き出したり、危険な機械の操作方法などをわかりやすく解説している。また、機械が故障した際の修理方法を動画で解説することも可能だ。

同社のこのアプリは、製造現場で働く人のガイドブックとなるだけではなく、製造工程の見直しや興味を持った他の企業に対して製造工程を可視化させることで企業のアピールする材料にもなりうる。アプリはApple StoreとGoogle Playからダウンロードができる。

「Vuforia Chalk」で遠隔地から空間に"マーク"を描く

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画像出典:PTC

PTCの製品はこれだけではない。「Vuforia Chalk(ヴューフォリア・チョーク)」と呼ばれるARアプリでは、カメラで工場内や現場、もしくは試作品を写しながら、まるでチョークで印をつけるかのように映像にマークをつけることができる。タブレット画面に指先で丸を囲んだり、指示を書いたりすることによって遠隔地にいる人同士でも的確に、かつリアルタイムにコミュニケーションをとることができる。この機能が優れているのは、一度つけた印は画面を動かしても消えない点である。

Vuforia Chalkは現場に頻繁に出向く必要のある監督者、責任者、エンジニアといった人たちにとって移動の手間を省いてくれる優れたアプリケーションだ。遠隔地から指示を出せるため、細かい話のすり合わせのために時間を割いて実際に足を運ばなくて済むようになる。時間を省くことももちろんだが、移動にかかる諸経費の削減にもつながるだろう。

この機能はiPhone 6s以降、iPad Pro 2015以降(第5世代iPadを含む)でのみ利用することができる。どのように利用するかは以下のURLにある動画で確認できるため、興味を持った方は参考にしていただきたい。


PTCは2015年にIoTとAR技術の進化を図るためにVuforiaを買収している。

Vuforia StudioとMicrosoft HoloLendsで3D画像処理も楽に

PTCが提供しているサービスで、「Vuforia Studio(ヴューフォリア・スタジオ)」というツールがある。Vuforia Studioは機械の設計を3D画像で直感的に操作するためのツールであり、複雑なコードを使用することなしにドラッグ&ドロップで直感的な操作をすることが可能だ。

Vuforia Studioでは見たい箇所のズームアップや角度を自由自在に変えることができ、また部品の取り付け・取り外しや機械が動くようすを実際に動かしながらシミュレーションすることができる。実物がそこになくても、それにほぼ近い形で3D映像を見ることが可能だ。以下の動画リンクはVuforia Studioに関する30秒ほどの動画で、同製品の機能をざっと確認することができる。


Vuforia Studioでは、具体的には次のような機能を使うことができる。以下はPTCの同製品紹介ページからの引用である。

● ドラッグアンドドロップによる直感的なオーサリング環境で AR コンテンツをすばやく作成することで、収益化までの時間を短縮

● 既存の 3D CAD ジオメトリ、順序立てて説明するアニメーション、IoT データを活用して魅力的な体験を作成することで、コストを削減し複雑さを緩和

● 企業全体にわたってスマート デバイス上で単一の汎用アプリケーションを使用して AR 体験を表示することで、エンタープライズのスケーラビリティを提供

● スマートフォンやタブレット、Microsoft HoloLens などのウェアラブル デバイス向けの標準装備のサポートによって、あらゆるデバイス向けのコンテンツ作成を簡略化


Vuforia Studioは上記にもある通りMicrosoft HoloLendsとの併用も可能だ。これを使うことで、CADデータを動作する3Dアニメーションに変換することもできる。また複数の条件との組み合わせも可能で、あらゆるシミュレーションを実行することができる。あらかじめ設定したシミュレーションとHoloLendsを用いることによって、実際に機械が3Dで動作するようすを観察することが可能だ。これにより設計に何か問題ないかをイメージしやすくなり、例えば言葉では説明の難しい工程を複数人で実際に見ながら共有することも不可能ではない。

製造工程にARやVRを導入する際の課題

工場の自動化を取り入れる企業は増えてきているが、これから導入しようとしている企業にとってはどの点が課題となるのか具体的にイメージは難しいかもしれない。

Robotics Business Reviewの記事では、PTCの副社長であるJean-Phillippe-Schutz氏にインタビューを行なっており、同氏に工場の自動化における課題は何かという質問をしている。

「製造工程や製造構成が複雑になるにつれ、工場の自動化が近づいているという別のトレンドがあります。

製造業者は、より少ない人員でより多くのことを行おうとしていますが、それでも機械を組み立て、操作、または保守するための人員が必要です。彼らは製品のスキルセット、物事を修正する方法を知っている人々を必要とするので、対処することがもっとあります。」


つまり、工場の自動化は様々なところで始まっているが、工場で稼働している機械の保守・点検・修理はまだ人手が必要ということだ。

RPAでオートメーション化は進むが、製造業における無人化はまだ先?

製造業において、機械とインターネットが繋がるIoT化で工場の無人化が進むのは最近のトレンドである。しかし、機械しばしば何らかの理由で故障するため、修理や保守の知識をもった人員が必要だ。機械を修理するための別の機械が登場すれば話は別だが、完全な無人化に繋がるまではまだ時間がかかるだろう。

機械のことを熟知している修理工やエンジニア人員を確保することは時に難しい場合もある。そのため、PTCのコミックブックによる解説はもし機械が壊れた場合や点検をする必要がある場合、どの部分を重点的に見るべきかを視覚化して教えてくれる。修理や保守のための知識や技術がない人でも効率的に学習し実践することができるだろう。

また機械や商品の設計をする際にはまだ人間のアイデアと試行錯誤が必要だ。今回記事でも紹介した遠隔地にいてもコミュニケーションに役立つVuforia Chalkや、立体画像をアニメーション化し様々なシミュレーションできるVurforia Studioをはじめとして、PTCの提供しているツールは現実世界での不自由さをARやVR技術によって解決しようとしている。