ロンドン・ヒースロー空港で運用されている個人用高速輸送システム「Pod」

イギリス・ロンドン郊外にあるヒースロー空港では、空港ターミナルまでの移動を助ける電気バッテリー駆動の無人車が活用されている。紫色の車体の「Pod(ポッド)」と呼ばれているこの自動運転車は、完全にドライバーレスで動く未来を感じさせる乗り物である。以下ではこのPodについて解説していく。


空港ターミナルの移動がスムーズな無人移動車両「Pod」

Podは球形に近い形にデザインされた非常に目を引く乗り物である。
最大乗車人数は5人までで、早朝から深夜まで運行している。Podの通行レーンは自動車の走行する道路ではない専用レーンを走るため、交通渋滞に巻き込まれることなくスムーズに空港ターミナルまで移動することができる。ターミナルまでの所要時間は約4分から6分以下だ。

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また、停車/乗車地は空港の駐車場や空港周辺のホテルに近い場所にあるため、到着の際や出発の際の移動がスムーズでストレスが少ない。

こちらの動画では実際にPodが運行している様子を確認することができる。


使い方は簡単で、ステーションで専用端末(タッチスクリーン)を操作して行きたい場所を指定するだけだ。発進する前に中央システムによってルートがプログラムされ、他のPodと位置関係を考慮したうえで進む。もし何かが間違っている場合はボタンを押すことで有人のサポートセンターにつながる仕組みとなっている。

Podの操縦は全てコンピュータによって行われているが、セキュリティに何か問題が起きたときのためにすべてのPodはCCTVカメラによって様々な角度から監視と録画がされている。

Podは電気エンジンで稼働しているため、CO2排出量はゼロである(ただしバッテリパックをチャージするための電力生成にかかるCO2排出については別)。ディーゼル車稼働にかかる年間約7万の燃焼を節約することに貢献した。またPodはバリアフリー設計のため、車椅子に乗っている人やベビーカーを押している人でも簡単に乗り降りすることができる。

Pod導入の目的

Podはヒースロー空港周辺の交通渋滞の解消と、空港駐車場の駐車スペースを確保するために2011年から運用が開始されている。

Podはいくつかの乗車地からターミナル5までのルートを往復して走行する。ヒースロー空港の公式HPによると、ターミナル5に発着する便に搭乗している乗客の数は年間で3,190万人、フライト数は21万3,000を超えている。

ターミナル5は乗降客の多いヨーロッパ各方面や中東、北米・中米行きの便が多く発着するため、ヒースロー空港の中でも最も多忙なターミナルである。ヒースロー空港で最も乗客数が多いニューヨーク(JFK空港)やアムステルダム、ダブリン、ドバイ、香港発着便のうち、香港以外はこのターミナル5に発着する。

Podを開発したUltra global PRTの今後の展望

Podを開発したUltra Global PRTは輸送システム業界で有名な企業である。
PRTとは、Personal Rapid Transit(個人用高速輸送システム)の略で、Podのような少人数が利用可能な高速輸送システムを指す。

同社は都市部での最適な輸送ソリューションを考案するために1995年にブリストル大学と共同でエンジニアリング・リサーチ・プロジェクトを開始。2000年には英国政府とInnovative Transportのための契約を取り交わし、Pod開発の試作と設計のために2.7百万ポンドの資金を調達し、3年後に英国の規制当局(HM Rail Inspectorate)の公的承認を得た。

Podの運用成功により、同社の提供している輸送システムに対するニーズは今後高まっていくと考えられる。同社はインド北部のアムリットサルに建設される予定のPRTシステムに加え、ブラジルのフロリアノポリスという都市でPRTの導入が実現可能かを議論する詳細なフィージビリティ・スタディを行い、またマレーシア・台湾・タイ・オーストラリア・サウジアラビアのパートナーとも協議中である。

インドのアムリットサルに建設予定、世界最大級のPRT

ロンドン・ヒースロー空港で運用されている個人用高速輸送システム「Pod」
画像出典:Ultra Global PRT、完成予定のイメージ画像
http://www.ultraglobalprt.com/worlds-largest-urban-prt-system-announced/

シンガポールを拠点とするFairwoodのグループ企業である「ULTra Fairwood」は、上記で紹介したPodをアジア地域において普及させようとしている企業である。同社はパキスタン国境に近いインド北部の都市・アムリットサルで世界初・また最大級の都市型PRT建設の契約を行なった。

アムリットサルで建設予定のPRTは、高架ガイドウェイを建設して7つの駅間で200個のPodが稼働する。約3kmの区間において最大10万人を輸送することができる。

アムリットサルはシーク教における重要な都市で、同市にあるゴールデン・テンプルはシーク教信者にとって最も神聖な場所である。シーク教の重要な祭日には約50万人がゴールデン・テンプルに訪れるため、この期間の交通渋滞の解消と移動時間の短縮の目的で導入される予定である。このPRTが導入されることによって、従来かかっていた移動時間は30分短縮でき、1日に35%の巡礼者を目的地まで運ぶことができると予想されている。

Podは1台につき4人から6人を乗り降りさせること可能で、主要な駅やバスターミナルからゴールデン・テンプル間の移動に焦点が当てられている。ヒースロー空港のPodと同じく、ドライバーレス、電気バッテリー駆動、コンピューター駆動、ゼロエミッションの特徴と同じである。

PRTは交通渋滞が深刻な都市部で活躍する

上記ではヒースロー空港とインド・アムリットサルでの活用事例について取り上げたが、Podのような少人数を目的地まで無人運転で運ぶPRTは都市部においてその機能を発揮する。

PRTが重宝されるのは、乗降客の多い区間での活用である。ヒースロー空港の例から、ターミナル間と特定の駅からの移動をスムーズにすることで空港周辺の交通渋滞やスペース不足の問題を解消することにつながることがわかった。また4分から6分ほどでターミナルに到着することができるため、飛行機の時間が気になる利用客にとって高速で移動できるPodは非常に使い勝手の良い乗り物だ。

インドのアムリットサルの例では、都市に一定の期間だけ来訪者が増加することで引き起こされる交通渋滞を解消することにつながると見られている。

PRTの導入は都市部での交通渋滞や駐車スペース不足を解消することもそうだが、電気エンジン駆動のためCO2排出量がゼロで環境に良い乗り物である。また無人で運行しているため、車両の操作に人間の運転手を必要とせず人的コストをカットすることができる。

渋滞やスペース不足が深刻な世界の大都市部では、今後PRTが導入されていくのかもしれない。