海上に浮かべて飲料水なども作れる、みどりの発電人工島

おたくの電気は何由来? と聞かれて胸を張り即答できる団体はまだ少ないだろう。グローバルに事業展開する米国の巨大IT企業らは、自社オフィスやデータセンタで消費する電力をすべて非化石由来、風や水、太陽光由来の電気でまかなうと宣言し、それを達成したところも現れている。

人と地球環境に優しく持続可能な電源へのシフトは日本でも進められていて、資源エネルギー庁のWebサイト「なっとく!再生可能エネルギー」からは各種基本データ、夏休みの自由研究に役立ちそうな知識のほかに、新たな事業計画の認定を受けたり、固定買取価格制度を利用したりするための情報も得られる。およそ10年前に余剰電力の買取りが始まって以来、太陽光パネル発電施設は、街の時間貸し駐車場よりも盛大に増えている。

山の上には風力発電施設も散見されるが、手軽さとコスト、技術の成熟度などから圧倒的に太陽光発電が人気を博し、近ごろようやく、豪雨災害などを背景に、「再検討の余地あり」と市民らが気づき始めた。再エネ利用促進のための補助金給付は、政令で定められた電源に限られる。「新エネルギー」として、太陽と風のほかにバイオマスや廃棄物由来のもの、電気自動車なども選ばれていて、天然ガスコージェネレーションなんかも含まれる。

リストにはしかし、大洋に浮かぶ火山列島であるこの国独得のものは見当たらない。温泉地帯の地熱利用は国定公園等との絡みで実現が難しいにしても、景観をほとんど害さない、国立研究開発法人NEDOが軸となって進めている潮流や波のエネルギー利用が何故に「対象外」なのか――。同機構の大部のPDF資料によると、高効率化・低コスト化が大きな課題であり、既存海域利用者との協調が重要だそうだ。

いずれの再エネ発電でも施設建設候補地にて、環境アセスメント(経産省Webサイト)が必要だし、漁業権と、海の安全(海上保安庁マップ)を守る取り組みが必須であることは理解できる。波力発電では'15年に最大15kW級の実証実験が行われ、昨年100kW級の海流発電試験が実施されたばかりなので、やはり発電能力とコストが実用水準に至っていない、それが「新エネルギー」扱いされない原因だろうと想像していたら――

東京都港区のWE Technology社は、GPI(グリーン電力島)なる波力発電施設の開発プロジェクトを進めていて、直径14mのそれで1,200kW、32mなら5,000kW、120mの人工島ともなれば12,000kWもの定格出力を誇る浮島を展開する予定。すでに昨年、進取の気性に富む神戸市の沖合で同設備の基本機能を実証実験したという。

海上に浮かべて飲料水なども作れる、みどりの発電人工島


商用化の暁には船舶と同様に移動用のスクリューを備え、船舶に要求される以上の高度な安全装置を搭載。海底へのアンカー留めなしに位置を制御できる。GPS機能が付く浮島の発電機器は、陸地や船上などから遠隔制御も可能になる。GPIの想定発電コストは5.6~7.0円/kWhで太陽光発電の半分以下。耐用年数も50年と、他の発電施設のそれを10年上回っている(「事業性」ページ参照)。

海上に浮かべて飲料水なども作れる、みどりの発電人工島


波力発電イメージ

根拠は「システムの固定上の安定性の増大、高波、嵐、津波及び台風に対する強度を持つ『浮遊する波エネルギー変換島状プラットフォーム』」(特許第6117391号)であり、不規則な双方向円運動を連続かつ一貫した単方向運動に変えるRPM増幅メカニズム(特許第6130531号)など、様々な工夫を凝らしたことにあり、メカの塩害を防ぐ装置により、飲料水の供給もできる。

現在ビジネスパートナーを募集・開拓中だという、同社のGPIは、海流の中の島々も強い興味を持っていて、燃料電池車をはじめとした「水素社会」をめざす日本では、工業地帯の沖に浮かべる際、島の上に水素生成装置を設ければ「一石三鳥」になりそうである。これを井上ひさしさんが見たら、作品中どんな風に描いただろうか――。

海上に浮かべて飲料水なども作れる、みどりの発電人工島