デジタルデザインをもっと簡単に。「Alchitry」
一般的な集積回路はASICと呼ばれるものに分類され、コストパフォーマンスや安定性などのメリットから、多くの分野において重宝されているモデルだ。
一方でASICでは対応しきれないクリエイティブな営みや、さらなる上級者にとっては時としてASICを用いることが足かせとなるシチュエーションも存在する。
そのような時に活躍が期待できるのがFPGAと呼ばれる集積回路なのだが、今回紹介する「Alchitry」シリーズもまたFPGAの一種で、多様化するニーズに応える開発者向けの集積回路だ。
ASICとFPGAの違い
ASICは低コストで大量生産でき、なおかつ不具合も少なかったことから、一度に多くの集積回路を要する工業生産の現場では特に重宝されていた。また、消費電力も比較的低いことからユーザビリティの側面においても評価が高く、開発者と利用者の間でWin-Winとなっていたことも背景にある。
今日でもASIC規格が集積回路において主流なのはそのような理由で、工業的に生産されるハードウェアにはASICが必ずと言っていいほど搭載されている。
しかしながら、個人レベルでの開発、あるいはデベロッパーによるテスト設計となると話は少し違ってくる。実は高い安定性を誇ると同時に、ASICは一度回路設計に不具合が生じているとなると修正が困難で、もう一度加工し直さなければ使い物にならないという融通の悪さを抱えているのだ。
これは試験的に様々な試みを試したいと考えている人にとっては非常に都合の悪い仕様である。もちろん大量生産の現場においても不具合の修正が難しいことはある意味でリスキーと言えるが、それ以上に小回りが利かないというのは個人や少人数で回路設計に取り組む人には煩わしいことだろう。
そこで誕生したのがFPGAである。FPGAは製造した後でもユーザーが回路を構成し直すことができる集積回路で、ASICとは違い気軽にトライアンドエラーを試みることができる。
そのような便利なものがありながらなぜASICが使われ続けたのかといえば、ASICの方が高速かつエネルギー効率も高く、どうしようであればスペックに優れており、仕様の汎用性も確保されていたためである。
しかしながら現在では開発も発展し、今やFPGAであってもASICと同様のスペックで活躍が期待できるようになっているため、両者の差は非常に小さなものとなった。FPGAは今にもましてASICに変わる存在、あるいは同等に重要な集積回路となっていくことだろう。
クオリティの高さと充実のサポートが売りのAlchitry
AlchitryもまたFPGAに分類される集積回路である。Alchitry AuとAlchitry Cuが今回リリースを予定しており、CuはAuのライトバージョンとなっている。Auは回路基板2枚分に匹敵するパワフルなスペックを持っており、FPGAとしては高いパフォーマンスが期待できる。
Alchitryからはハードだけでなく、回路設計用ソフトウェアも提供されている。Alchitry Labは公式サイト内で受けられる丁寧なチュートリアルも付属しており、回路設計初心者にも易しい環境が整えられている。
https://embeddedmicro.com/pages/lucid
そしてAlchitry Labはオープンソースによって開発されているため、開発者たちによる頻繁なアップデートや機会があれば開発にも参加することができるという、極めて開かれた環境が提供されている。
デバッグ機能も優れたパフォーマンスを発揮する。シームレスに動作し、リアルタイムでのエラーチェックを高い精度を持って行ってくれるだろう。
Alchitryプロジェクトは今回の集積回路のリリースだけでなく、今後も様々なシリーズでの開発を進めていく予定となっている。今後の近いプロジェクトとしてはソフトウェア開発に注力し、Alchitryのサポートをさらに優れたものにできるようなプロダクトを開発したいと開発チームは語っている。
また、より開発が身近になるようなビデオチュートリアルコンテンツの増強も図りたいとしている。回路設計やプログラミングは文章や画像を見るだけでは敷居が高く、新規の参入を拒んでしまう側面も多かったものだが、ヴィジュアルで具体性の高い動画によるチュートリアルを多数用意することで、誰にでも親しんでもらえる環境の構築が進んでいくことだろう。
Alchitryは現在Kickstarterで注文を受け付けており、Cuは一枚50ドル、AUは一枚90ドルで購入することができる。