SteamaCoのシンプルなマイクログリッドが農村地域の人々の生活を変える
消費者がスマートグリッドを活用することで得られるメリットは、省エネルギーを意識することで利用料金を節約が可能である点だ。エネルギー供給会社にとってのメリットは、計器をひとつずつ確認しに行くことなく、遠隔地からエネルギー消費量を確認して消費者に料金を請求できる点である。
消費者とエネルギー供給者にとってメリットのあるスマートグリッドだが、実現させるためには様々な課題がある。ネットワークにつながることから個人情報保護のためにセキュリティを強固にしなければいけない点や、設置コストがかかる点、規制をクリアしている点など様々な問題を解決しなければならない。
スマートグリッドを新たに開始させる場合は長いスパンと初期投資を考えなければいけないため、スマートグリッドより小規模な「マイクログリッド」(ミニグリッドと呼ばれることもある)の導入が早い場合もある。
「SteamaCo」というイギリス・マンチェスターに本社のある電力供給会社では、マイクログリッドを進めている。
今回はSteamaCoが実施しているマイクログリッドがどのようなものなのか、ケニアでの導入事例を解説していきたい。
SteamaCoとは
SteamaCoはイギリス・マンチェスターで2012年に設立された比較的新しい企業である。
同社はアフリカとアジアを中心に9つの国でサービスを提供しており、ミニグリッド、バイオガス蒸解池、太陽光灌漑用ポンプを使用して、およそ3,000の家庭や企業にサービスを提供している。
同社では、クラウドベースのリモートメータリングおよびペイメントシステムを使用してユーティリティ事業を自動化しており、例えば電気の供給が乏しい地域においてソーラーパネルによる電力供給を実現している。
ケニアのEnestopiaで行われているマイクログリッドの事例
ケニアの農村地域のひとつであるEntesopiaでは、SteamaCoが設置した太陽光発電装置がある。
この発電装置は誰がどれくらいのエネルギー量を使用したかをクラウド上で管理することが可能だ。電力は主にソーラーパネルによって蓄電され、直流と交流に電力を交換するインバータを備えている。日中に太陽光を蓄電し、エネルギーの一部は夜中に利用されている。
Entesopiaではおよそ65世帯の一般家庭および企業にマイクログリッドで蓄電した8キロワットの電力が供給されている。SteamaCoの太陽光発電装置でかかる料金は個人の太陽光発電システムを利用するよりリーズナブルで、利用者が使いたい時だけ使うことができる。
夜間に電気が使用できるようになってから、人々の生活にも変化が現れている。夜間でも電気が利用できるようになったことで学生は勉強に時間を割くことができ、夜でもテレビを楽しんだり、冷たい飲み物を飲めるようになったり、娯楽も活発になっている。
SteamaCoの電気料金の支払い方法はシンプルで、ケニアで広く用いられているM-Pesaという料金支払いによってキャッシュレスで支払いを完了することができる。
M-Pesaとは
M-Pesaは送金のためのプラットフォームで、モバイル端末とインターネット接続さえあれば利用することが可能だ。M-Pesaのサービスを提供しているのはSafaricomとVodacomという通信事業者で、親会社はVodafone。
M-Pesaは相手の銀行口座の情報を得ることなしにショートメッセージを送信するだけで送金が可能という手軽さから、利用者が爆発的に増加している。様々な生活にかかる支払いにおいてM-Pesaは利用されており、銀行口座を持たない人々でも利用できることからケニアの総人口の半分はこのM-Pesaを利用していると言われている。
SteamaCo設立の道のり
SteamaCoの共同設立者であるHarrison Leaf氏は、同社の設立に関して「壮大なデザインはなく、大きな商業コンセプトはなかった」と語っているが、SteamaCoは着実に規模を拡大させている。設立当初、氏は東アフリカ地域で働く自動車技術者のスキルに触発されたと述べている。
最初は風力タービンを建設するための専門知識が利用できるかどうかを試すために行動に移し、スクラップの自動車部品からタービンを設計、その後人々を訓練するためのワークショップを開いた。ケニア西部で20人のブルーカラーの人々を雇い、小規模な風力タービンを建設。それらを学校や保健医療施設に導入した。SteamaCoは設立当初から、大規模な都市ではなく小規模な地域においてマイクログリッドを進めてきたことがうかがえる。
「最も重要なのは、課金と計量における資産の自動化です。私たちがこれらの問題を解決したとき、私たちが実行したいと思っていたビジネスがスマートメーターリングであることが分かったのです。そして、私たちは私たち自身の最初の顧客であったため、これらの問題を他のものよりも良く解決できるという合理的な信念を持っています。」とLeaf氏は語っている。
まとめ
ケニアのマイクログリッドの例からわかるように、SteamaCoが提供している太陽光発電システムは非常にシンプルである。
太陽光パネルで発電した電力を蓄電し、消費者が利用したいときのみ電力を使用する。電力使用量は遠隔地でも確認することができるため電力を計測する係員はおらず、料金はモバイル端末とインターネット環境のみで請求される。
世界ではおよそ20億人の人々が電力へのアクセスに乏しい生活を送っている。最も電力供給が乏しい地域はサブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南の地域)で、主に過疎地域において6.2億人の人々は電力へのアクセスが難しいとされている。多くの政府や電力会社が国家的なスマートグリッドを提唱しているが、高い初期費用と少ない利用者という需要と供給のアンバランスから特に農村地域では成功には至っていない。
SteamaCoのマイクログリッドは、そのシンプルさと利用における障壁の低さからアフリカの農村地域に住む人々のニーズや生活の実態と合っていると言えるだろう。
貧困やインフラ設備の乏しさなど様々な要因で設備の敷設が難しいことや、電気料金が高いために電力の利用を敬遠しがちな地域においてリーズナブルかつ簡単に電力を使用できることは人々の生活を大幅に変えていく。SteamaCoの事例は、マイクログリッドによって電気の利用が難しい人々に光明をもたらすことだろう。
・Power Technology
https://www.power-technology.com/features/SteamaCo-disruptive-smart-metering-africa/
・SteamaCo
http://www.vulcan.com/MediaLibraries/Vulcan/Documents/Kenya-Mini-Grids-White-Paper-VI2.pdf
・CNBC
https://www.cnbc.com/2017/06/15/in-kenya-micro-grids-are-boosting-access-to-electricity-for-rural-communities.html
・Youtube
https://www.youtube.com/watch?time_continue=68&v=UEIwQQF01gI