P2Pの電力取引を可能にするシンガポール発スタートアップElectrify

2016年4月にスタートした電力自由化で、日本では個人が利用したい電力会社を選べるようになった。しかし依然として電力の供給元は企業単位である。しかし、未来には電力の供給元を個人単位で選べる時代になっていくのかもしれない。

バッテリー製造メーカーであり世界的なバッテリー製品サプライヤーであるNarada(本社:中国杭州市)は、シンガポールに本社のある「Electrify(エレクトリファイ)」という企業と共にブロックチェーンを活用したIoTソリューションによってエネルギー取引とトラッキングを目指している。

ElectrifyはP2Pの電力取引を可能にするプラットフォームである。以下では、ElectrifyのP2Pプラットフォームについて解説していく。

Electrifyとは

Electrifyはエネルギー業界で上級役員を務めたJulius Tan氏とMartin Lim氏によって2017年にシンガポールで設立されたばかりの新興企業である。

同社は東南アジアで初の電力小売事業者と需要者をオンライン上でマッチングさせるサービスを展開している。これによって電力小売事業者と需要者は最適な価格で電力を売買することが可能になる。P2Pによる取引であるため仲介業者が存在せず、また従来の売電契約にかかる煩雑な手続きもオンライン上で全て完結させることができる点が画期的なサービスである。同社は「Marketplace 2.0」というフレームワークでスマートな契約を使用することにより、イーサリアムのブロックチェーン上で取引を実行する野心的なプロジェクトに参入した。

こちらはElectirifyのホームページに掲載されているホワイトペーパーである。日本語にも翻訳されているため、Electrifyの行なっている事業内容をより深く知ることができる。

ElectrifyのMarketplace2.0とは

Electrifyはモバイルマーケットプラットフォームである「Marketplace2.0」という仕組みによって利用することができる。消費者は電力小売事業者や小規模電力供給者からP2Pネットワークを介して直接電力を購入することができるため、仲介業者を挟むことなく取引手数料を低く抑えることができ、取引を自動的に実行することができる。電力の供給者と需要者はそれぞれeWallet(イーウォレット)を持つことで取引を行う。

Electrifyの利用手順

Electrifyを利用するためには、まず最初にいくつかの質問に答えたあとに会員登録をする必要がある。同社のホームページに掲載されている手順には、会員登録するユーザの情報やどれくらいの期間の契約を行うか、またどれくらいのエネルギー生産量があるかといったベーシックな質問が並んでいる。質問に答えたあと、見積を表示することができるようである。

見積を算出するための操作を行い、会員登録を行ったあと、パッケージプランから自分に最適なものを選択する。

Electrifyのプラットフォームで表示されるパッケージプランは、数百万の価格の順列を検索することができる「Fibonacci(フィボナッチ)」という見積システムによって算出される。提示される価格は電力小売業者のシステムからリアルタイムで算出されている販売価格だ。最適なプランを選択したあとは、オンラインペイメントによってスムーズに支払いを行うことができる。この際に必要な書類の画像をアップロードも行うため、すべてをオンライン上で完結させることが可能だ。

ElectrifyのPowerPod

P2Pの電力取引を可能にするシンガポール発スタートアップElectrify

画像出典:Electrify

Electrifyはどのようにしてブロックチェーンベースの取引を行うのか。これには同社が開発した「PowerPod(パワーポッド)」を利用することで取引を行うことができる。PowerPodは、P2Pのエネルギー取引における重要な要素であるブロックチェーンにデータを記録する前に、小規模の生産者からのエネルギー生産を追跡また監査する。PowerPodはNB-IoT(Narrow Band-IoT)、3G / 4G、802.11、イーサネット、さまざまなRF帯域幅を含む多数のプロトコルと標準規格を通じて世界中と通信することができる。

こちらはPowerPodを実際にデモンストレーションで使用している様子を記録している動画である。電力生産者はこのPowerPodによって生産した電力の測定と記録するようだ。

電力をP2Pで取引するメリット

エネルギーをP2Pで取引できるようになることでどのようなメリットがあるのだろうか。P2Pで取引できるようになるとこのようなことが可能になる。

●エネルギーを効率的に分配する

太陽光発電パネルを設置している世帯で生じた電力を必要としている人に向けて簡単に分配することが可能になる。電力を分配する際に生じる面倒な手続きがなく、スマートかつ高いセキュリティの下で取引を行うことができる。

●中央集権型でなく分散型のエネルギー供給を可能にする

従来のエネルギー供給方法は、中央集権型の統制された電力市場だった。しかし、現在はこのエネルギーの供給方法がもっと自由になりつつある。消費者がエネルギー供給会社を自由に選択できるようになったことで市場での競争が起こり、エネルギー消費にかかるコストが下がるようになる。仲介業者も存在しないため、コストを抑えることもできる。

●途上国の電気料金支払いを支援

近年はブロックチェーンを活用して、発展途上国の電気料金の支払いが困難な団体や個人に支援する動きも見られる。

このように、P2Pで電力を取引できるようになることは様々なメリットをもたらすことになる。現在いたるところでP2Pを利用したエネルギーの取引を実証するための取り組みがなされており、ヨーロッパではTal.Markt, Enerchain, Share&Charge, PylonNetwork, Sunchainなど多くの企業がある。P2Pによるエネルギー取引は世界的なトレンドになりつつある。

まとめ

Electrifyは2018年4月にシンガポールを拠点としたマーケットプレイスであるSynagy(シナジー)の実現のために日本最大の電力会社である東京電力と覚書を交わしている。東京電力はElectrifyとの協力の他に、ドイツのinnogy社とP2Pプラットフォーム事業を共同で進めるなどして新しいプラットフォームを取り入れることに積極的な姿勢を見せている。

Electrifyのホワイトペーパーに掲載されているロードマップでは、このSynagyとPowerPodの実証実験が2018年のQ3にはテストされ、同年Q4日本へ事業拡大、2019年にはフィリピン・オーストラリアへの事業拡大が示されている。エネルギー取引サービスを提供している企業はアジアではそれほど多くないため、同社が日本へ事業拡大した時にはどのような変化が起こるのか期待が高まる。

Electrifyのシンガポールでの成功は、シンガポールのみならずアジア地域においてP2Pによるエネルギー取引を加速させることにつながるかもしれない。